2012年度森基金研究成果報告書

シミュレーション解析を用いたヒト赤血球の酸化的溶血反応機構の解明

 

政策・メディア研究科修士1年 先端生命科学プログラム

下 英恵

学籍番号: 81224572

 

要旨

酸化的負荷によって誘発される赤血球の溶血機構を理解することは, 血液の長期的な保存や先天性酵素異常症患者の病態解析といった面で非常に重要である. しかし, 赤血球が酸化物に曝されてから, 溶血の直接的な原因になる膜タンパク質band 3の凝集体(クラスター)が形成されるまでの詳細な分子的なメカニズムについて, 未知な部分が多く存在する. 本研究では, 赤血球が酸化物に曝された際に経る膜破壊の課程のコンピュータシミュレーションモデルの構築と解析により, 溶血の機構を理解することを目指した.

 

結果

今回構築したモデルでは, (1)酸化物侵入によるband 3膜タンパク質の酸化およびリン酸化, (2)リン酸化によるband 3の凝集化, (3)グルタチオン(GSH)などの抗酸化物質の低下を生化学的・物理的変化のパラメータとして表現した. このband 3クラスターモデルが予測した酸化剤下での変化は, 同様な条件で行なわれた実験結果の一部とよく一致しており, これまで明らかにされていなかった酸化剤の反応過程や生化学反応の反応速度パラメータについての知見を得ることができた. またクラスター形成を可視化し, クラスター形成に関わるパラメータを変化させた際のクラスターの形を実際のクラスターと比較することにより, より精密なパラメータが存在する可能性があると示唆された.

 

報告書全文

 

 

2012年度業

学会発表

・       Shimo H, Nishino T, Tomita M. “Modeling of oxidative stress induced membrane protein clustering in human erythrocytes”, ICSB, 2012, Toronto, Canada

・       Shimo H, Nishino T, Arjunan S, Takahashi K, Tomita M. “Modeling of oxidative stress induced membrane protein clustering in human erythrocytes”, Joint Conference on Informatics in Biology Medicine and Pharmacology, Tokyo, Japan