2013年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書

メタボローム解析による卵巣がんの薬剤耐性メカニズムの解明
A role of glutamine as a significant factor of cisplatin resistance in ovarian cancer cell line

先端生命科学(BI)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
修士課程1年 郭セイ (jing@sfc.keio.ac.jp)

研究成果
卵巣がんは無症状なために早期発見が難しく,発見時にすでに進行がんになり,転移が進んでいることが多いため,がん化学療法が臨床で広く使用されている.シスプラチンは卵巣がんの臨床治療に用いられるプラチナ製剤の一種であるが,シスプラチンを使用した患者のうち約70~90%は薬剤耐性が生じ,薬剤耐性がん細胞の出現によって治療が困難になる.現在,がん治療法開発のためにがん細胞の薬剤耐性獲得機構の解明が期待されている.近年,メタボロミクスの応用によって,がん細胞の特異的な代謝が明らかにされつつある.本研究では,メタボロミクスによる卵巣がんにおける薬剤耐性メカニズム解明のため,ヒト卵巣がん薬剤感受性培養細胞A2780とそのシスプラチン耐性株A2780cisを用い,メタボロームプロファイルを作成した.感受性株とシスプラチン耐性株の細胞及び培地サンプルを作製し,それをキャピラリー電気泳動飛行時間型質量分析装置 (CE-TOFMS) を用いて測定した.その結果,耐性株の細胞内,細胞外ともにグルタミン含有量は感受性株と比べ著しく高かった.活発に増殖するがん細胞では,細胞を構成するさまざまな物質の生合成が活発であり,グルコースやグルタミンなどの栄養分が大量に消費されると知られている.だが,耐性株ではこれに反する結果となり,グルタミンに関する代謝は薬剤耐性に寄与する可能性を示している.

キーワード:シスプラチン,薬剤耐性,卵巣がん,メタボローム

REPORT