THEME / 主題

レッドクイーンの法則 〜知の遺伝子進化を加速せよ〜

"Now, here, you see, it takes all the running you can do, to keep in the same place. If you want to got somewhere else, you must run at least as fast as that."
------ Lewis Carroll "Through the Looking Glass" (1871)

「ここではだね、同じ場所にとどまるだけで、もう必死で走らなきゃいけないんだよ。そしてどっかよそに行くつもりなら、せめてその倍の速さで走らないとね!」
ルイス・キャロル(山形浩生訳)『鏡の国のアリス』(2000)


INTRODUCTION / ご挨拶

レッドクイーンの法則って、なに?

Kumasaka

SFC Open Research Forum(ORF)も、今年で10回目を迎えます。やっとでもあり、あっという間の10回目でもあります。今年もその舞台は、湘南藤沢キャンパスを飛び出し、六本木ヒルズです。

ORF2005のテーマは、『レッドクイーンの法則−知の遺伝子変化を加速せよ−』です。SFCの遺伝子を継承する若手研究者が企画の中心になって、今年のORFを多彩に演出します。びっくりするような実験環境を、アカデミーヒルズ40階に設け、みなさんにSFCの先端研究の最前線をお見せしたいと思います。

SFCは、いつもミステリーです。昔から、なにをやっているのかわからない、とよく言われたものです。今回も、『レッドクイーンの法則』という、不思議なテーマですので、ますます「わかんない」と叫ばれるでしょう。しかし、僕たちは、それがSFCらしさであると、なぜか誇ってしまいます。いつまでたっても大人になれない、やんちゃなガキだな、と思われるでしょうが、そこにこそ、SFCの存在意義が潜んでいるのです。

SFCらしさは、多様性にあります。総合政策、環境情報、看護医療の3学部、政策・メディア研究科、そして今年度開設されたもう1つの大学院の健康マネジメント研究科、どれもユニークで、研究成果はまさに多様です。つねに先端を走る実験キャンパスであり、同時にこれからの新しい社会の創造やイノベーションに貢献する、というミッションを忘れるわけにはいきません。

ッドクイーンの法則というのは、『鏡の国のアリス』にある決めゼリフのコピーです。「せめてその倍の速さで走らないとね!」・・・そんなの当然で、SFCは、誰よりも速くそして遠くへ走ってきました。いまさらながら、ただ、進化するSFCだ、とあえてカッコつけたいのです。研究内容は、もちろん百花繚乱で、とても賑やかで華やかですが、やっぱりミッションがあるから、SFCはもっと遠くまで進化します。

ORFでは、その進化した姿を、みなさんに評価してもらいます。ORFは、みなさんとの激しいバトルとコラボレーションを通して新しい発見をするチャンスであり、そのためにチャレンジする場です。ですから、ここで「もっとラディカルに!」と宣言しておきます。どこまでも走って、走っていることに気がつかないほど走らないと、レッドクイーンに笑われるはずです。昨日のSFCはなんだった、と不思議がられるほど、ミステリアスな存在にならないと、カッコ悪いでしょう。

研究者のみなさん、現場を熟知している行政やビジネスのみなさん、真剣勝負をしましょう。ホームカミングデイを楽しみにしてきた卒業生のみなさん、SFCで学びたい高校生のみなさん、ORFをみれば、SFCの未来がみえます。あなたたちは、未来からの留学生なのです。


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ORF2005:レッドクイーンの法則 -- 知の遺伝子進化を加速せよ

 レッドクイーンとは新しい知を求めて走り続ける人のことです。新しい知を求める動きは世界中でいっせいに進んでいます。SFCは常にその最先端に居続けようとしてきました。しかし、その位置に安穏と立ちすくんでいるだけではあっという間に取り残されてしまいます。『鏡の国のアリス』(山形浩生訳)の中でレッドクイーンは、「ここではだね、同じ場所にとどまるだけで、もう必死で走らなきゃいけないんだよ。そしてどっかよそに行くつもりなら、せめてその倍の速さで走らないとね!」と言っています。われわれは同じところにとどまっているわけにはいかないのです。

 SFCの強みは、研究者と学生、そして学外の皆さんとがコミュニケーションしながら、知の遺伝子をぶつけ合っているところです。生物は単純に自分の遺伝子をコピーするだけでは進化できませんし、生き残ることもできません。遺伝子を掛け合わせることで進化をし続けてきたのです。われわれの住む世界や社会が刻々と変化していく中で進化をやめることは、環境に適応できなくなることを意味します。

 SFCの研究・教育は、「問題発見、問題解決」であるといっています。新しく登場してくるさまざまな問題の中から重要なものを自ら見つけ出し、その解決策を探っていくことで、変化する世界に生き残る知を得られるようになることを目指しているのです。ORFはそのためのヒントを世に問う場所であると私たちは考えています。

 今回のORFでは、二つのアプローチでSFCの成果と未来への取り組みを紹介します。一日目はビジネスや行政の現場で問題に直面している方々とコミュニケーションしたいと思っています。日頃皆さんがどのようなことに悩んでいらっしゃるかを教えてください。私たちが考えるアイデア、制度、ツール、デザインがお役に立つかもしれません。二日目は未来を考えるヒントを求める方々、SFCに興味のある方々に来ていただきたいと思っています。SFCが新しい知を求めて、もがき苦しんでいる姿をこっそりお見せします。

 多彩なゲストも登場します。揺れ動く東アジア情勢について日本と韓国の若手政治家が、本音で語り合ったり、ミスター・インターネット村井純と大前研一氏の対論があったりします。もちろん、「レッドクイーンて何なの?」という疑問にも冨田勝がしっかりお答えします。最先端の知を求めて悪戦苦闘中の教員がその研究過程を公開してしまいます。

 二日間を通じてわれわれはいくつかの実験もする予定です。例えば、ここ数年注目されているRFID(電子タグ)は本格的な実用段階に入ってきました。そのメリットを会場で体験していただけます。

 私たちは猛烈に頭をひねりながらORFの準備をしてきました。この過程こそが新しい知を生み出す過程であり、皆さんとのコミュニケーションを通じて、更にその知は醸成されると確信しています。皆さんも積極的に、知の進化過程に参加してください。未来がもう少し見えてくるはずです。



SFC Open Research Forum 2005 実行委員一覧

実行委員長熊坂賢次 環境情報学部教授
実行委員稲蔭正彦 環境情報学部教授
國領二郎 環境情報学部教授
小林正弘 看護医療学部教授
小檜山賢二 環境情報学部教授
花田光世 総合政策学部教授
宮木さえみ
森澤珠里
ワーキンググループ委員 井庭 崇 総合政策学部専任講師
大川恵子 政策・メディア研究科助教授
大前 学 政策・メディア研究科助教授
重近範行 環境情報学部専任講師
神保 謙 総合政策学部専任講師
玉村雅敏 総合政策学部助教授
土屋大洋 政策・メディア研究科助教授
内藤泰宏 環境情報学部助教授
増田真也 看護医療学部助教授
脇田 玲 環境情報学部専任講師