無題ドキュメント

1.キャンパス・グローバル化の定義

　高等教育の国際化、グローバル化（国際共同化）とは、どのような状態を指しているのだろうか？国際化もしくはグローバル化という言葉の定義をすることが本研究の目的ではない。ただし、「大学を国際化する」あるいは「グローバル化された大学」といった概念をどう捉え、そのための課題と具体的を検証することから研究をスタートさせたい。

A）大学国際化の概念

　大学審議会答申（１９９８年１０月）においては「国際交流の推進」というテーマのなかで大学国際化の課題を以下のように述べている。

「大学の国際的通用性の向上等大学の国際化を促進するためには，留学生受入れをはじめとする国際交流をより機能的に推進するための学内体制の整備充実に努めるほか，外国人教員を含めた多様な教員構成とすること，海外との情報ネットワークを整備することなどが必要である。また，セメスター制の導入などにより大学の学部や大学院の仕組みについての国際的な通用性を高めていくことなどを通じて，研究者交流や国際共同研究を一層進め，研究水準や教育内容において国際的競争力の高い魅力ある大学を目指し努力していく必要がある。」

　ここでは、包括的に国際交流について述べているが、答申のいう「大学の国際化」とは以下の３点に課題を集約している、といえよう。

１）国際的に通用する教育システムの確立

２）留学生交流や学術研究の国際交流を拡大する

３）国際社会で活躍する人材の育成

　ただし、答申は具体的な課題を提示していないので、２）を除いて「何を取り組むべきか」という部分が明確になってこない。
「大学教育の国際化」（喜多村和之、1984）においては３つの特徴を大学国際化の要素として取り上げている。

１）外に対する普遍性――「通用性」
あ	「大学の基本的な機能（すなわち高等教育や学術研究）が、異質な言語・文化をもつ人びと（外国人研究者や留学生）にも一定の効果をともなって作用し、あるいは一定の評価をもって受け入れられるようになること」
２）ルールや制度――「交流性」
	「外国人研究者との交流や共同研究、留学生の受入れや派遣において、大学の国際交流のためのルールや体制がどのように確立されているかといういわば「交流性」が、その大学の「国際化」の度合いをはかる指標となろう。」
３）ひらかれた大学――「開放性」
	「大学の教育・研究の担い手であり、すぐれて普遍的な知識・技術の追求にたずさわっている教授団のなかに、異質な文化を背景とする外国人学者が、日本人と全く同等の地位と資格において迎えられているか否か、その「開放性」がその大学の「国際性」をはかる尺度となろう。」
＜第I部2『大学の国際化とはなにか』より＞

　
　この喜多村教授の指摘は、大学における外国人教員の任用枠が拡大していく８０年代を背景として、大学の国際化を定義づけたものである。キャンパス環境が多文化、多国籍化した学術コミュニティーとして発展していくことが、大学国際化の課題である、という点を明確にしている。
江淵一公九州大学教授は大学の国際性をつぎの３つの概念で定義しようと試みている。

１）知的普遍主義（intellectual universalism）普遍的価値・真理の探求をめざす学問に内在するものである。
２）知的国際主義（intellectual internationalism) 「学問に国境なし」という精神に貫かれている。
３）国際的に通用するレベルの研究と開放的な教育システム

『大学の国際化ないし高等教育のグローバリゼーションとは、第一次的には「知的普遍主義」の思想に根ざす「学問の普遍化」ないしは「学問のボーダーレス化」の要求に動機づけられた大学再編の過程である。』「大学国際化の研究」（江淵一公、1997）

しかし、江淵教授によれば、大学が置かれている状況はより複雑化しており、高等教育のグローバル化は、「大学再編の過程」という定義に集約しきれない、としている。高度な科学技術が要求される時代にあって、「優秀な人材と最先端の学術情報を求めて国際的に協力しあい、競争しあう関係におかれる」大学は必然的に言語・文化的、経済的、政治的な横断領域で「学術交流の国際的ネットワーク」を構築することをめざすことになるからである。

B）グローバル化の課題と具体的取り組み

　ここまで見てくると、大学におけるグローバル化の課題は、「世界に通用する大学」「国際的に活躍しうる人材育成」という枠組みに留まらない。高等教育界における国際的な協力と競争のなかで、学術交流の国際的なネットワークを形成していくこと、この学術ネットワークの拠点となるようなキャンパスの教育・研究環境を構築すること、多面的・相互的な教育交流の基盤となるような制度の確立、など極めて高度で複雑な課題に直面しているのである。さて、個々の大学にとってグローバル化はどのような意味を持つのであろうか。上記のような複層的な課題があるなかで、グローバル化の課題・目標は単一のものではなく、むしろ大学によって「どこにグローバル化の目標を設定し、どこに重点をおくか」は異なったものになるかもしれない。ここでは、グローバル化の理念、課題、そして具体的取り組みを簡単な表にあらわしてみることにする。

＜表１＞キャンパス・グローバル化の理念、課題、具体的取り組み
理念	課題	具体的取り組み
知的普遍主義（知的国際主義）	学問のボーダーレス化に対応
高度情報化・グローバル化に対応しうる教育研究環境の確立（国際競争力の確保）	国際的に通用する大学（教育・研究水準の引き上げ）	優秀な人材（教員・研究者）確保
多文化・多国籍のキャンパス環境グローバルなリソースの確保	教員の国際公募	国際共同研究の促進教員（学術）
交流多様なパートナーシップ（海外の大学との共同授業、単位互換、共同の学位認定）	海外での拠点形成
グローバルに活躍しうる人材の供給	国際的に通用する人材の育成	よりポテンシャルの高い学生の確保
国外からの出願を含む多様な受験者層のリクルート）	多様な海外での教育プログラムの開発と推進（インターンシップ、交換留学の推進、フィールドワーク	卒業生の国際ネットワーク
国際的な学術ネットワーク（COE）	多言語化横断型カリキュラム異文化教育、異文化コミュニケーションの推進	キャンパスにおける多言語化

　以下の座標には、縦軸に「理念性・普遍性」、横軸に「市場原理・競争力」をとってみて、表１で見た課題や具体的な取り組みがどこに入るかを構想してみることにする。例えば、ほとんどの日本の大学でおこなっている「海外語学研修」を例にとると、（一般化することは難しいが）、多くの場合、団体で実施する短期語学研修は「大学が主催しなければならない」という理念性・普遍性を高く持ち得ていない。また、市場原理の観点からも外部の業者に委託したほうが効率的で安上がりというケースが多いのではないか。したがって、この座標軸では「海外語学研修」は縦軸、横軸ともに低い位置にマークした。もちろん、個別の大学においては「語学研修」をユニークで創造的な取り組みとして推進されている場合もあるわけで、すべてのケースでこの判断があてはまるわけではない。

ここで協調したいのは、個々の大学において実施されている国際関連のプログラムや取り組みについて評価する基準が無く、「どこに重点課題を設定すべきなのか」といった議論する素材もない、という話を良く耳にする、ということである。一つの判断材料としてこのような座標軸を設定する、あるいは自己評価のためのチェックリスト（Ⅳ.を参照）を作成する、という選択肢もある、という問題提起をしておきたい。

＜座標１＞高等教育グローバル化の課題

　こうして見ると、この座標軸でXにあたる部分での課題と取り組みについて、個々の大学が資源を集中させ、強力に推進していくことがその大学のグローバル化に寄与する、と言えるのではないだろうか。もちろん、そのXが何か、は大学の持つ戦略や中長期計画によって変わってくることはいうまでもない。

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