2001年度(平成13年度) 森基金報告書 (研究の概要)

19 郊外地域のサスティナブル・ディベロップメントと環境保全のプログラムの提案

大都市郊外における緑地からの環境形成
―横浜市・市街化調整区域を対象とする基礎的研究―

Green Urban Planning in the Suburban area
-A Case study of the Urbanization Control Area In Yokohama City-

片桐由希子 Yukiko Katagiri (80031414)
yukiko77@sfc.keio.ac.jp

0.目的と背景


大都市郊外に残存する自然環境は、「身近な緑」として都市構成上重要な役割を果たすものである。大都市郊外 は同時に都市地域の健全な発展と秩序ある整備を目的として市街化調整区域(以下、調整区域)が定められている個所 でもあり、自然共生都市実現に向けての取り組みが行政・ 市民・企業を取り込んでおこなわれようとしている現在の 流れの中で、調整区域を自然環境の保全に果たす役割から 見直す必要がある。

本研究は、大都市郊外部の調整区域を自然共生都市の実 現に寄与する緑地環境の潜在力を持つ地区として捕らえ、この地区での緑地からの環境形成を検討するための基礎的 資料を目的として行ったものである。

既往研究との関係

調整区域全体では農村地域を中心としたもの、規模の多 いきい自然環境の保全やレクリエーション施設としての運営法など比較的まとまりとして捕らえやすい環境を扱うも のが多く、保全制度の評価は一つの制度について扱ったものがほとんどである。本研究の独自性は、大都市郊外の調整区域全体緑地環境 の整備の潜在性を持つ地区と位置付けて、その環境形成の手法についてGIS利点を生かした、多角的な分析を行った点にある。

研究の手法

@行政資料からの調査とArcViewから、調整区域におけ る自治体の緑地保全施策の体系を把握し、保全体系に対す る緑地環境を分析した。これに基いて、A市域、流域のス ケールにおいて土地利用現況の調査分析を行い緑地分布の 傾向を分析した。さらに、この緑地環境への効果的な保全 手法の導入を検討するため、町丁目のスケールの対象地を 選定し、B緑地分布状況の詳細な把握と現状の保全制度と の関係の分析C過去に遡った地域構造の把握とC開発許可 台帳を用いた開発動向の調査から、現状の保全制度体系で の対応が困難な緑地環境への保全活用の適用策を示した(図 1)。

対象地の概要

本研究では、横浜市をの市街化調整区域を対象とした調 査分析う。横浜市では、市街化区域が32866ha、市街化調整区域は10511haで市域の1/4が市街化調整区域に指定されている。横浜市は緑の基本計画のに基いて、緑の軸と拠点の整備、都市農業の振興、緑化推進などの多様な緑地保全の施策が行われているが、この中でも調整区域は特に、緑の7大拠点や農業振興地域における横浜市独自の制度、農業専用地域、ふるさと村や恵みの里の農業施策などの施策の核をなすものである。(図2)

使用データとアプリケーション

本研究では、GISを用いた空間解析によって調整区域の環境を分析した。基本となるデータは、神奈川県から提供された「平成7年度版 都市計画基礎調査」と横浜市緑政局から提供された「緑のオープンスペース事業把握システム」を用い、デジタルデータの無いものについては、地図データをプロットし独自のデータを作成した。GISのアプリケーションとしては、ESRI社のArcView3.2、と拡張機能を用いた。


図1:研究の流れ

 


図2:横浜市の調整区域と緑政の現況

 

 

1.横浜市における市街化調整区域への施策と類型化


都市計画・防災からの規制、緑地保全活用の制度の適用があり、環境保全制度は、農業振興・緑の保全・都市公園整備の各分野からの保全がされている。(図:3)

環境保全制度全体を通じてふるさと村や市民の森のように市民利用を意図したレクリエーション拠点としての整備が行われている。レクリエーション拠点として整備されている個所は郊外の緑の軸となる7大拠点とかさなってかなりの規模で分布することから。市民の利用度の高い空間として、緑地を都市機能に組み込んて環境保全をおこなう体制を読み取れる。この施設的に利用される緑地中心に、分散的に分布する保全施策の適用地に対し緑地保全・活用について積極的な目的・手段をない地区が市域の67%を占めている。調整区域を緑地環境形成の場とするためにの鍵は、この地区が握っているといえる。(図:4)

 

 


図3:環境保全施策のまとめ

2.保全系施策と土地条件と開発動向の現況調査


市域全体と流域ごとにおいて、土地利用、自然的土地利用への保全施策対応の状況に関して全般的な傾向と関連性を分析した。問題個所であった保全制度体系外の地区については、大まかな分析からは傾向を見出せなかったため、緑農業振興地域と風致地区指定、流域の境界によって分けられる区域ごとに 緑地分布状況をを中心に土地利用を分析したところ、@まとまっ た規模の緑地A小規模な自然利用地と建物敷地の混在の2つの傾 向を把握することが出来た。@については、緑地保全施策の適用 が立ち遅れている地域であり、協定緑地を伴う大規模開発の受け 皿となる傾向がある。Aについては、主な緑地が保全体系に組み 込まれずに残った、または地形状の制約から、自然利用地が小規 模で建物敷地と混在した地域であり、現在の保全制度の体系では カバーされない部分ある。


図4:環境保全制度体系外の地区

ケーススタディー

 

対象地域:帷子川流域/最上流の上川井地区(図:5)

現状の保全制度体系で対処することが出来ない、緑地分布の2 つの類型を念頭において対象地を選定し、町長目のスケールでのケーススタディーを進めた。


図5:対象地/帷子川流域・上川井町

3.緑地保全施策体系外の調整区域の分析


保全制度の体系外となっているそれぞれの地域と土地利用と土 地条件の相関についての分析を行った結果、次のような傾向が明らかになった。

農振白地 : 
市街化の進行が低平地と緩斜面を中心に急斜面 まで進行しつつある。また、市街化傾向の強さと緑地が小規模に分散することから、現制度においては対応する保全策がない。

農振白地・第3種風致地区の重複地区  : 
農振白地地区にくらべ、市街化区域と丘陵地の間にある比較的 広い低平地部など市街化を抑制しうる要素が高い地域である一方、 全体に緩やかな地形であり、開発を誘導する可能性のあるまと まった緑地について保全体制が追いついていない。

 


図6土地利用現況と地域単位

4.地域構造と緑地保存、市街化傾向


現状の保全制度体系での対応が困難な緑地環境への保全活用の 対策の検討する糸口を歴史に遡った地域構造に求めた分析をおこない、地域構造と土地利用現況の背景について分析した。

 

5.開発プロセスに関する調査


地域構造から分析した市街化の背景への裏付けと47年以降の変 遷状況を詳細に把握するために開発許可台帳を用いて対象地の開発実績の調査を行った結果、@線引き以前からの住居地区では小 規模な建築・開発行為更が頻発し、市街地の更新と拡大が進展し ていること、A90年代に入ってまとまった緑地に対する大規模な開発が頻発するようになったことが分かった。前者は小規模に分 散して発生して徐々に地域の構造を変えるもの、後者は、住居地 区の後背地に起こることことからも、なし崩し的緑地が減少していく状況が読み取れた。

 

ケーススタディー(3.4.5)のまとめ

一律・面的な現状の地区指定に対して、この地域構造を反映さ せた緑地形成手法の可能性を展開した。まず、自然的土地利用が 中心となっている部分、都市的土地利用と自然的土地利用が混在 する地区、市街地と隣接し、土地利用にかんしても市街地に近い 傾向を示す個所を選び、自然的土地利用が中心となっている地区 の緑地の変遷の可能性が出てきたときには、その他の地区の緑地とのトレードの可能性がないかを、丘の単位で検討する。また、どうしても売却、緑地の開発が避けられない場合おいては施設の目的や緑地の残し方の規定についての方針を、丘の単位で提案するシステムを作ること。市街地に隣接する地域に関しては、緑地環境の恩恵を感じられる町並みの形成を、宅地更新に合わせて進展されるような基準を作ること。土地利用の混在地に関しては、0.5ha以上の農地に関しては営農を存続する場合に、優遇措置を与えることが効果的だと考える。また、これらを実行するためには、地域の意思を汲みながら全体像を描ける総合的な計画が必要である。


図7環境形成手法

 

7.まとめ

―調整区域が緑地からの環境形成にむけて

調整区域が緑地からの環境形成に必要とされる項目は@住空間や緑地の分布、過去に行われていた自然立地条件に即した土地利用による地域構造などに配慮したきめ細やかな施策の展開A協定緑地を伴う開発を環境形成の観点から開発目的も含めて誘致し、緑地としての利用価値を高めるというような緑地保全施策の転換B調整区域を緑地からの環境形成を行う場として位置付けた総合的な計画である。上記項目の実現により、緑地保全制度体系外の各地区において生活環境を緑地が身近に取り囲む緑地からの環境形成が実現されることで、市街地の後背地のまとまった保全施策体系内の緑地同士、緑地と市街地とを連携させる役割を持ち、また拠点型の緑地が分散する現状から、調整区域全体が都市環境を緩やかに包み込む流域・大都心型のグリーンベルト的な役割を持つ緑の環境にとすることが出来る

今後の課題

本研究では、緑地保全制度体系外の地区うち一町丁目のみを対象として地域の構造と結びつけた分析を行った。緑地保全施策体系外となった調整区域について緑地からの環境形成の具体的な提案を行うためにはさらに、@横浜市全域の緑地保全体系外の地区を対象と調査・分析A緑地の規模や分布状況を客観的に捕らえるための計量的な分析手法の導入と実地調査B各流域の環境構成についての詳細な検討が必要であり、ここから地域の実状に応じた調整 区域の保全施策と計画手法を研究していく所存である。

 

参考・引用文献



図8概念図