2003年度 森泰吉郎記念研究振興基金 国際共同研究・フィールドワーク研究採択 研究成果報告書
現在までの参加人数、取引数などは以下の通りである。
計画では 1,000人以上の参加を期待していたが、 現状はその 1/10 程度であり、また、 信用値が 0 以外の (≒アクティブに活動している) 参加者が 9名と少ないことから、 協調関係の形成について意味のある分析は未だ行なえていない (予備実験として行なっている WIDE Hour ではこれが可能なことから、 先行して WIDE Hour の分析を進める予定である)。
タグ破損の原因分析:
破損の直接の原因については、 問題となるタグについて、今後、物理的な破損箇所を調査し、分析する必要があるが、 流通の経路のどの時点で破損が最も起きやすいかについて、以下の考察を行なった。
計測を行なった倉庫では、 2,000冊を超える絵本が写真5-3 のようにふたつのパレット (フォーク・リフトで荷物を運ぶための荷台) に分かれて山積みになっていた。 ふたつのパレットの内容を表6-1 に示す。
表6-1. ふたつのパレットの内容
パレット | 冊数 | 内訳 |
---|---|---|
第1パレット | 1,430冊 | 10/6〜11/10頃に返品が到着したもの |
第2パレット | 679冊 | 11/10頃〜12/3に返品が到着したもの |
今回、計測された書籍はすべて、
製本所 → 取次店 → 書店 → 取次店 → 版元倉庫
という経路を通った。 取次店は 8社あるが、ふたつのパレットの間で、 その 8社の割合に大きな差はなかった。
破損の原因としては、流通の経路の各拠点 (取次店、書店、倉庫) や運搬中における圧力・衝撃が考えられる。 大まかに考えて、そのどの部分が大きな問題となったのか、 これからのためにも知る必要がある。
今回の計測では、個体毎に、タグがリーダにより検出された時刻を記録してある。 破損したタグを発見した時刻、 すなわちリーダにより検出されないタグだと判断した時刻は、 RFID では原理的に記録できず、記録作業が繁雑になるのと、 どうしても人手を介するため正確になりにくいという理由もあって、 記録していない。 また、今回、RFID を用いたのは出荷時の全数検査と倉庫での棚卸し時のみで、 個々の書籍が途中の経路をどう通ったかという履歴は記録していない。
図6-1 に、検出された個体数と時刻をグラフにして表した。
図6-1. 検出された個体数と時刻
今回の計測は、タグが破損しているかどうかを調べる目的があったため、 1冊1冊について、EPC が読めるかどうかを慎重に検査する必要があった (実際には 2冊ずつ重ねてリーダに読ませた)。 1冊あたり平均約 6.6秒をかけてリーダに読ませたことになる。
図6-1 のグラフでは、最初、緩やかに学習しながら検査の速度を上げ、 約1時間の休憩の後、安定した速度で検査を続けたことが分かる。 最後に検査速度が低下している部分は、 一旦、タグが破損していると判断したものを、念のため再検査した期間である。
このデータの中から、検出の間隔が10秒以上の個体のみを抽出してグラフにしたものを 図6-2 に示す。
図6-2. 10秒以上の間隔で検出された個体数
RFID が通常の性能を示していれば、 (人間が手渡しで作業しているので) 検出の間隔は数秒になるはずであり、 これらの個体は、タグの性能が劣化したり、何らかの電波干渉があったり、 あるいは間に破損したタグがあったことを示していると言える。
休憩時間を表す横線がわずかに上方にずれ、 午後の方が検査の効率が高かったことを示す他は、 図6-1 と図6-2 のグラフの形状にはほとんど変わりがない。
ここから更に、検出の間隔が20秒以上の個体のみを抽出してグラフにすると、 図6-3 のようになる。
図6-3. 20秒以上の間隔で検出された個体数
これは多くの場合、間に破損したタグがあったことを示し、 破損したタグの数の推移を大まかに表していると言える。
このグラフからは、 休憩時間の後、数度に渡って、20秒以上の間隔で検出された個体が少ない期間、 すなわち、タグの検出効率が高かった期間があることが分かる。 そして、その期間の長さも、間隔もまちまちであることが分かる。
前述のように、検査対象はふたつのパレットに分かれていた。 計測は第2パレット → 第1パレットの順で行ない、 平均して約1割のタグが破損していたので、 パレットの境界は検出数が 610個目程度ということになり、 作業がふたつ目のパレットに移った時刻は、 図6-1 のグラフから 13:12 あたりだと分かる。 従って、図6-3 は、 あきらかに第1パレットでばらつきが多いことを示していると言える。
何故、ふたつのパレットの間に差が現れたかについては、 様々な可能性が考えられる。 パレットの積み方が異なっていたのではないか、 というのが最も考えやすい仮説だが、 写真5-3 から分かるように、積み方には大きな差は見られなかったし、 第1パレットの方が高く山積みになっており、 かつ破損したタグが少なかったので、 高く積むことによる圧力の影響はかえって小さいことが分かる。
むしろ、第1パレットの方が早い時期に返本されていることに注目し、 取次店と書店を結ぶ経路のどこかに大きな原因があると見ることもできる。 この仮説を検証するべく、2004年6月頃、再び同様の計測を行なう予定である。