2003年度 森基金報告書

研究課題

「3DCGコンテンツにおけるキャラクタモデリング手法の提案 〜デジタルキャラクタメイキング〜」

政策・メディア研究科
修士課程1年
下澤章吾
sim@sfc.keio.ac.jp


研究概要

近年の映画やアニメーション、ゲイムなどのコンテンツでは、3次元コンピュ ータグラフィックス(3DCG)技術を用いて、それに登場するキャラクターやオブジ ェクトをモデラーと呼ばれるスタッフが手作業でモデリングしている。しかしモ デリングには多くの技術的知識や造形的センスが要求され、モデリング行為自体 のプロセスは感覚的になり、ブラックボックス化されてしまっている。本研究で は、制作工程全体という大きな枠組みからモデリングを捉え、他の工程とのつな がりや関連性という観点から、モデリングという工程を解明し、新たなモデリン グ手法を提案・システム化することを目的とする。


研究計画

まず、モデリングの対象をコンテンツにおいて最も重要なファクターである、 キャラクタに絞る。 これは、コンテンツにおいて、ストーリーを一方の柱とした場合、キャラクタ がもう一方の柱となるという考え方による。コンテンツ制作者のメッセージはキ ャラクタの思想、行動、セリフなどを通じて始めて観客に伝えられる。

従来のコンテンツプロダクションの流れから、このキャラクタをつくる過程に注目 してそのプロセスを解明、構築することが本研究の大きな目的となる。

そこで、1学期目は準備段階として文献などのサーベイにあて、今までに培われてき た、モデリングの技術的側面として、モデリング技術、モデリングのためのノウ ハウを調査する。 モデリングの技術的側面としては、3次元形状のデータ入力や表現方法などがある。 また、モデリングのノウハウは、実績ある制作者やモデラーによって書 籍やwebサイト上で出版、公開されている。 ここでモデリングに関する技術的知識と同時にノウハウの調査を行い、体系的な 把握を目指す。

次に、関連分野としてそれぞれ、プロダクションパイプラインについて、 3DCGツールそのものについて、デッサン等の美術的基礎知識、 キャラクターデザインについての調査を行う。

2学期目は1学期目を踏まえて、次の2点について調査・研究を進める。

モデリング技術、ノウハウのリサーチの拾遺 主に、春学期に挙げた文献、雑誌の特集などから、モデリングに関わる技術 的文献を調査し、まとめる。また、デジタルアニメマニュアル編集に携わり、実 際の制作現場においてのノウハウのリスニングを行う。 ・キャラクタメイキング 今学期、東京工科大学大学院において開講された「デジタルキャラクタメイキン グ」に参加および授業の進行をとりまとめる。 この講座は、モデリング工程だけでなくその前後の工程に目を向ける、という切 り口である。また、同時にモデリングに関わるクリエイターの方々をゲスト講師 としてキャラクタメイキングに関連する話をヒアリングする。

研究結果報告

モデリングとは

3DCG→コンピュータを利用した造形作業
物体の形状をデータとして表現し、そのデータをコンピュータに入力するこ とをモデリングと呼んでいる。現在多くの3DCGを利用したコンテンツで行われる 作業で、制作者がもっとも時間をかける工程のひとつである。

モデリングの技術的側面とノウハウの調査

モデリング技術調査

モデリングという工程内のみに限ってその技術的側面をみていった。

サーフェスモデルとソリッドモデル

3DCGにおけるモデリングは2種類あり、サーフェスモデルとソリッドモデルに分 かれる。サーフェスモデルは、立体形状を表面の面で捉え、ソリッドモデルは内 部の体積も含めた閉じた空間として扱う。
大抵のCGソフトウェアにおいて最終的にすべてのオブジェクトはポリゴン に分化されてサーフェスモデルとして扱われる。

サーフェスモデルのデータ表現

3DCG を利用したコンテンツに出てくるオブジェクトは、一部を除き そのほとんどがサーフェスモデルとして制作されている。 これは、ほとんどのコンテンツにおいて、 物体表面にあたる光の反射を計算させてレンダリングするというCGの画像生成 プロセスだけを考慮すればよい場合が多いためである。

サーフェスモデルとして物体の表面をデータとしてあらわすには、 基本的なポリゴンモデリングをはじめとして、 サブディビジョンサーフェス(再分割曲面)やメタボール、 パラメトリック曲面を用いた スプラインモデリング、ベジェモデリング、NURBSモデリングなどがある。

ポリゴンモデリングは、もっとも基本的かつ一般的なモデリング手法である。 ほとんどのCGソフトウェアがポリゴンを取り扱っている。 ポリゴンとは、3次元空間上の位置座標を示す点、それらを結ぶ順番、面の法線、 各点ごとの属性情報などから構成される、多角形である。
ポリゴンモデリングの利点は、

などがある。
しかし、ポリゴンモデリングでは特に曲面をあらわす場合非常に小さな面で近似しなくては ならないため、有機的なオブジェクトを制作する場合に不向きな場合がある。 これらデータ表現のデメリットを解消するために、 その他さまざまなモデリング手法が開発された。ユーザはそれら特徴を踏まえ、 これから制作するモデルに適したモデリングデータ表現を選択することになる。

3次元形状のデータ入力方法

こうしたデータを入力するためには、ユーザがソフトウェアのインターフェース、 ツールを通して直接形状を入力していく場合と、 レーザー光やモアレ、またはブローブなどを使用して3次元形状を計測して入力する 場合とがある。現在は人の手による入力がほとんどであり、測定装置を用い てスキャニングしたデータでも、その後の工程で 人の手による何らかの修正が行われている。

現在3DCGソフトウェア上では人が直接操作するために、様々な形状入力・編 集ツールが用意されている。基本的な形状の入力・編集方法は同じような ものがあるが、使用するソフトウェアによって制限されることが少なくない。

以下は、実際に2003年度に携わったコンテンツ制作で行ったモデリングを ログ化したものである。

熱血出前物語モデリングログ
c-boysモデリング

モデリングのためのノウハウについて

こうした状況を踏まえ、実際のモデリング作業では、そのソフトウェアのみに有効な 制作方法であったり、同じソフトウェアであっても、バージョンの違い、対応する プラグインの違いによって変わってくるために、モデリング手法が局所化していること が多い。そのためモデリング手続きのための言語というものも一部のユーザにとって 有効であるような、方言的な傾向が見られる。

このようなノウハウ は殆どがチュートリアル的なもの(「実際にどうやって紙の上に描かれたデザイ ンをモデリングしたか」ということ)に留まっており、モデリングのための手法 (「どのように考えて紙の上に描かれたデザインをモデリングしていくか」)と いう段階にまでは至りにくい。さらに、仮にある程度のノウハウがたまっている 現場でさえ、制作するコンテンツに応じて、 最適なモデリング方法を新たに模索する場合がある。

プロダクションパイプラインからみたモデリング

また、モデリングはツールのみならず、制作フローからの影響もうける。 アニメーション、質感設定、レンダリングを考慮したモデリングを行うことになる。 たとえば、デザインされたキャラクタが二足歩行のアニメーションを行う場合、 ひざ、かかと、つま先はどのような形になっており、かつ アニメーションをさせるのに問題ないように最適な関節を制作しなくてはならない。 よってどのようなプロダクションパイプラインをもとにしているか、ということも モデリング工程には影響を与え、さらにプロダクションパイプラインはプロジェクト ごとに変わってくる場合があるので、モデリングの手法化を困難なものにしている。

モデリング関連分野の調査

ここまでの調査を終えて、 モデリング工程に関しては その技術的側面、 アップデートされていくツールやプラグイン、それに伴って変化していくノウハウ、 また従来からある、CGツールへの習熟度や、CGそのものの知識、物体のデッサン的把握など、 さまざまな側面が多くある。そのため、モデリング工程のみにおける モデリングプロセスというものの手法を打ち出しにくい状況にある。

このモデリングの手法化に関して、 モデリングそのものと、その前後の工程に目を向けて、1体のモデルが出来上がるまでの 流れを俯瞰してみるという視点で、次のキャラクタメイキングに関する考察を加えた。


キャラクタ メイキング

概要

 現在、漫画、アニメ、ゲームなど、様々な媒体でキャラクタが活躍している。 キャラクタの人気に引っ張られて、また別のメディアへと展開していくキャラク タもいる。こうしたキャラクタの制作は、現状ではほとんど感性的に行われ ているといえる。また、体系化、手法について述べられた文献も非常に少な い。

 本研究では、キャラクターメイキングのプロセスを構造化し、「キャラクタを作 るデザインマップ」を構築することを目指す。これによって、一見アーティスティック、感性的でプロセスが明確に 見えないキャラクタデザインへの新たなアプローチを探る。

このような体系化がなされることで、次のことが期待できる。

また、こうした構造化を行うことで、コンテンツ依存ではなく、キャラクタ依 存のデータベースを制作することも可能になる。新しくキャラクタをデザインす る際に、構造的に要素化された項目に各種データを入力することで、過去のキャ ラクタから近いデザインを参照できる。これによって、本当に作りたいキャラク タは何か、というデザインの支援を行うことも可能になる。デザイナだけでなく、 プロデューサ、ディレクタもキャラクタをデザインするプロセスに関わることが 可能になる。

今回は基本的な構造案とキャラクタデザインの要素の列挙を行った。

キャラクタとは

まず大まかにキャラクタについての定義を行う。今回はゲーム、アニメ、漫画、映画 という商業ベースのコンテンツに登場するキャラクタたち全般を対象にする。

コンテンツ制作において、キャラクタデザインという要素は、脚本と並び重要度 が高い。 アニメーションの物語はキャラクタのアクションによって伝達される ため、プロジェクトではキャラクターに性格を持たせ、存在感を持たせることに 多大な時間と労力が注がれる。

こうしてできた作品を支える魅力的なキャラクタは、読者、観客にとって感情移 入し、喜怒哀楽を共有することができる俳優であるともいえる。

キャラクタメイキング

おおよそ、上記のようなコンテンツキャラクタデザインは次のような制作過程を経る。

キャラクタメイキング遷移図

考案
 キャラクタを作る際の大元である、デザイン、コンセプトを得る段階。キャラクタコンセプトは、企画テーマ、脚本テーマと同じく、具体を取り除いた、抽象的な表現であったり、簡潔な表現に要約されることが多い。キャラクタのオリジナリティもここに求められ、もっとも制作者の創造的側面を必要とする過程となる。
表現
 従来のアプローチとしては、直接紙に描くという一般的なものから、クレイモデルをつくる、LEGOブロックでモデルをつくる、または、過去にあった作品を参照として引用する、などがとられてきた。最数的にプレプロダクションが終了したときには、「キャラクタシート」と呼ばれるものが配布可能なものとして制作されることになる。キャラクタシートは、キャラクタの主要な感情表現や態度をポーズまたは表情として示した絵である。また、この段階において、3DCGソフトウェアを利用して直接モデリングする、ということも可能である。
入力
 紙、セルアニメーション媒体では、直接紙やセルに描くことで、また、近年制作手法として一般化したデジタルアニメや、3DCGを利用した映画やゲームなどのデジタル技術を利用した媒体においては、デジタイザによるスキャニング、もしくはモデラースタッフによるモデリングによってデジタルデータ化される。
出力
ここまでの過程を経て制作されたキャラクタは、漫画、アニメ、ゲームなどの映像もしくは画像(2D)に、または、フィギュア、プラモデルなどの玩具商品など(3D)に出力される。
活用
近年では、キャラクタ人気に伴い、制作初期の段階から、漫画、ゲーム、アニメといった様々なメディアで同時展開されるキャラクタが登場してきた。ワンソースマルチユースなどのマーケティングモデルにのっとり、キャラクタ展開をする例が増加している。

  本研究は、これら制作段階のなかで、主に考案・表現のプロセスを明確化し、 支援する手法について提案するものである。漫画においては、漫画家自身が独自 に考案から出力までを担うことが多いが、映画およびアニメにおいてはプロデュ ーサや監督がデザイナと共同してキャラクタを制作していくことが多い。こうし た、複数のスタッフでプロジェクトを進めていく場合に、そのやり取りを円滑に 執り行なえるような手法を目標としている。

キャラクタのカテゴライズ

 どのようなタイプのキャラクタかを始めに決定する必要がある。これから デザインするキャラクタが人間なのか、擬人化されたキャラクタなのかで、キャ ラクタをデザインするための構成要素のうち、どの構成要素を重要視し、バラエ ティーを持たせるかが変わってくるはずである。そのため、どのようなカ テゴリのキャラクタをこれから制作するのか、ということを意識する必要がある。 誇張された様式的なキャラクタを作る際は、特にそのシルエットについて多様性を持たせたる場 合があるかもしれない。

 ここでは、暫定的に次の5つのカテゴリにキャラクタを分けた。

カテゴリ1
のらくろ、鉄腕アトム、ドラえもん、ピカチュウ、 ミッキーマウス、トムとジェリー、…など?
現時点での共通的な特徴、キーワード
  • 非人間
  • 擬人化
  • 「様式的」デザイン
カテゴリ2
仮面ライダー、ウルトラマン、 スーパーマン、スパイダーマン、ロボコップ、…など?
(現時点での)共通的な特徴、キーワード
  • 人間型
  • 様式的デザイン
  • 特殊能力性
カテゴリ3
サザエさん、チッチとサリー、キャンディキャンディ、 ブロンディ、ポパイ、ペティブーブ、ターザン、シンプソンズ、…など (現時点での)共通的な特徴、キーワード
  • 人間
  • リアル
カテゴリ4
ゴジラ、マジンガーZ、宇宙戦艦ヤマト、 キングコング、ジョーヤング、ハルク、ピンクパンサー、ダンボ…など (現時点での)共通的な特徴、キーワード
  • 非人間型
  • 巨大サイズ
カテゴリ5
伊達杏子 Inanova…など (現時点での)共通的な特徴、キーワード
  • バーチャルアクター・アクトレス、デジタルキャラクタ

 これらカテゴリの分類は、現在仮説的に設定されたカテゴリである。次 に延べるキャラクタデザインの際の構成要素をもとにした分析によって、その特 徴やキーワードに新たな共通性が確認された場合は、追加、修正、削除される可 能性がある。

キャラクタデザインの位置付け

 一般にコンテンツプロダクションにおいては、プレプロダクション(準 備段階)、プロダクション(制作段階)、ポストプロダクション(活用段階)という 制作フローを辿る(次図)。なお、コンテンツによって制作フローは変わってくる ために、プロダクション、ポストプロダクション内の詳細な工程は省いている。 キャラクタはプレプロダクションの段階で、環境やその他キャラクタ以外のオブ ジェクトと共にデザインされる。

一般的な制作フロー

コンテンツが設計されはじめると、コンテンツにおける制作意図、ラフな 脚本、おおまかな設定、イメージボードによるデザインなどが出来上がってくる。 キャラクタのコンセプトも、こうした流れの中に発生し、ある程度大まかな設定 が制作される。

プレプロダクションでは、企画、設定、脚本、デザインがリニアに決定さ れていくことは少なく、それらの工程は互いに密接に関連、影響しあってノンリ ニアに制作される場合が殆どである。キャラクタが先行して脚本が形成されてい くこともあれば、脚本からの要求によってキャラクタデザインを行うことも考え られる。出来上がったキャラクタを元に設定を変更したり、環境デザインを制作 していくこともありうる。

このプレプロダクションでの制作過程の中でのやり取りを、キャラクタと いう切り口に絞って俯瞰すると、その他の工程とは独立したキャラクタデザイン の中で制作される構成要素と、プレプロダクション中のその他の工程で制作され る要素とに区別することができる。

キャラクタの作り方

よくキャラクタの作り方は記号、パターンの組み合わせである、といわれてい る。まったく何もないところからすべてを作り出すのではなく、先人の作った財 産や己の経験の上に創造が成り立っているという考え方である。新しいアイディ アとは、そうした経験からの刺激(好き・嫌い)を要素化し、今までに無い組み合 わせの仕方をしたものである。これに従って、キャラクタメイキングも記号的な 要素をもとにして、パターン化、組み合わせて制作されると考える。それでは、 そのキャラクタデザインについて構成する要素にはどのようなものがあるのか。 結論として、次のようなものがあるとここでは提案する。

キャラクタデザインの構成要素

キャラクタデザイン工程における要素

その他のプレプロダクションの工程からくる要素

キャラクタデザインの構成要素

外見的要素は、そのキャラクタの外観やシルエット、身体全体の特徴を表し、 どのようにそのキャラクタが見えるかについて定義する。内面的要素は、キャラ クタの性格や行動原理について定義する。動的要素はキャラクタがどのような身 体構造をもち、どのようなポーズ、表情、動きをとるかについて定義する。

どの要素にも下位要素が含まれ、さらにその下位にもまた要素を含む場合が ある。例えば、外見的要素には、「顔」という要素があり、その中にも、「目」 や「鼻」、「口」などが含まれている。

外見的要素

外見的要素、外観(および服装)はキャラクタのパーソナリティを強調す ることができる。例えば、「The art of 3D」では、

をそれぞれ強調できるとある。その他、知性的なキャラクタであることを 表すためにメガネのアイテムを持たせる、元気なキャラクタの髪型をトゲトゲに するなど、キャラクタデザイナが独自の視点で発見したメタファーが含められる ことがある。

特に、視聴者、観客にとってはこの外見的要素が、最初にキャラクタを理 解する手がかりとなる要素である。キャラクタの個性や動きが外見によってのみ 決定されることは無いが、キャラクタの個性や物語上の役割というものは、その 外観に依存する場合が多い。

外見的要素は次のような下位要素に分類した。

  1. 全体的特長
  2. 頭身
  3. 頭および顔
  4. 衣服・アクセサリー

1.全体的特長

 全体的特長はさらに「シルエット(輪郭)」、「かたち(姿)」、「属性・モチー フ」、「色」、「名前」、「年齢」、「性別」、「職業」の項目を含めた。

「シルエット(輪郭)」
シルエットは、どのようにそのキャラクタの輪郭が見えるか、という 外観についての定義になる。キャラクタを黒く塗りつぶしてそのキャラクタと認 知されるかどうか、ということがキャラクタデザインではとりわけ重要視されて いる。四角い頭や丸い手足、とがった髪型、丸めた背、鋭角的な角、優雅で緩や かな曲線を持った身体など、主に幾何学的な特徴についての記述になる。
固有の視覚的な姿かたちはその個性や動きを決定するのに役立つ。コ ントラストの強いシルエット、弱いシルエットを意識する必要もある。

「かたち」
かたちはそのキャラクタの外見的特長について、主にマスとしての大き さや性質について記述するものである。大きい上半身、筋肉質な手足、太った体、 痩せ細った体、均質で変化に乏しい身体、細長い手足、ゼリー状の身体、硬質な 頭などがありうる。

「属性、モチーフ」
人間、獣人、メカニカル、犬、猫、妖怪…など、についての記述。

「色」
赤い服、青い肌…など。

「名前」
キャラクタの名前、もしくは通り名、呼び名など。

「年齢」
外見的年齢。15歳、老人、青年…など。

「性別」
男、女、性別なし、未分化、…など。

「職業」
職業

2.頭身

2頭身、4頭身、8頭身…など
頭身は頭と胴体の比率から決定される。キャラクタの身長を決めるときは、 目安として頭の大きさを用いる。漫画的なキャラクタは胴体に比べてはるかに大 きい頭を持っていることがある。

3.頭および顔

頭、顔には下位項目として、「目」、「眉」、「鼻」、「口」、「耳」、 「髪型」を含めた。

「目」
顔に対する目の大きさによって観客がどのようにキャラクタを認知するかが決まる。大きい目は無邪気な雰囲気を伝え、かわいらしく見える傾向がある。キャラクタの目が顔から飛び出しているような、漫画的な目をしている場合、その感情に合わせて、激しく向きを変えたり曲げたり出来る。 目についてはさらに多数の下位項目が発生する。「大きさ」、「形」、 「まぶた」、「上まつげ」、「したまつげ」、「黒目の大きさ」、「白目の大き さ」などがありうる。特定のカテゴリでは特に強調される部位であると思われる。

「眉」
太さ、長さ、つりあがっているか、たれているか、カーブの描かれ方、濃さ、つ ながっている

「鼻」
大きさ、形、鼻筋の長さ、鼻梁の長さ、小花の形、鼻の穴の大きさ、鼻の穴の見え方

「口」
大きさ、形、歯並び、唇の形、色、話すときの開き方、あごの形、ヒゲ

「耳」
大きい、小さい、福耳、その他の動物(猫、ウサギ…)の耳

「髪型」
髪の長さ、結び方、髪のアクセサリ、パーマ、くせっ毛、色

4.手

大きい、小さい、指の本数…
様式的なキャラクタの手は、漫画的に見えるようにするために、足と同様、 わずかに大きくすることがある。1920〜1930年代のアニメでは、手と手首が描き やすくなるように、アニメーターが漫画の手袋を考案した。漫画の手袋は見栄え がよくなるなどの効果のほかに、3DCGにおいても、その装着部分に継ぎ目があっ てよいので、素手よりもはるかに取り付けやすい、などの効果も狙える。

5.足

 大きい、小さい…

「靴」
スニーカー、ハイヒール、靴下、ストッキング、…
現実的な人間では、足は体に対して比較的小さいもので、前腕とほぼ同じ 長さである。一方、漫画のキャラクタは普通よりはるかに大きい、誇張された足 を持っている場合がある。

6.衣服とその他のアクセサリー

衣服はキャラクターが何者で、どのように認知すべきかについて、観客に かなりの情報を伝える。キャラクタを下品で不快にしたい場合は、それ相応の服 を着せるなどをさせる。

「衣服」
和服、軍服、学生制服、中華服、民族服…

「衣服の着こなし方」
ルーズ、だらけている…

「アクセサリ、携行品」
帽子、メガネ、武器(銃、剣など)、バッグ、メガネ、ほくろ、傷、刺青、 アクセサリー(イヤリング、ネックレスなど)、車やバイク、ペット

内面的要素

 内面的要素には性格、モチベーション(超目標)、癖、美点・長所、短所、 弱点、知性、愛情、好き・嫌い、趣味などが含まれる。

1.性格

無邪気、好奇心旺盛、正義感強い、高慢、残忍、繊細、真面目、優等生

2.癖

口癖

3.美点、長所

4.短所

5.弱点

苦手、恐怖を感じるもの

6.知性

頭のよさ、賢さ

7.愛情

家族愛、兄弟愛

8.健康

元気、病弱、健康

9.好き、嫌い

好きなたべもの、

10.趣味

魅力的なキャラクタは外観、表象から判断され、そのキャラクタの表象は 内面設定から現れることが多い。どんな性格で、どんな環境に育ったのかという ことと、どんな行動・どんなリアクションを取るのかは互いに関連しあう。

動的要素

動的要素は、タイミング、骨格、声、表情・顔つき、ポージング、声を含めた。

1.タイミング(テンポあるいはペース、スピードの変化、リズム)

タイミングは、キャラクタが行動をおこす際、あるいはリアクションを 返す際にどのくらいの時間がかかるか、ということについての記述である。

タイミングには「テンポ(あるいはペース)」、「スピードの変化」、「リ ズム」などが含められる。

「テンポ」
モーションのテンポもしくはペースといったもので、キャラクタごとに違 ったスピードの変化を持たせることができ、外見的要素同様に、キャラクタを表 現することに富む部分でもある。例えば、テンポの違いによって、次のようなメ タファーを表現することができる。

「スピードの変化」
 キャラクタの骨格だけでなく、そのかたちなども基本として、モーションのス ピードどのような変化を行うかをスピードの変化として、一定のスピード、ゆっ くりと変わるスピード、急速に変わるスピードなどと記述していく。スピード変 化によっても何らかのキャラクタ性を投影することが可能で、例えば、親密、信 頼できるキャラは一定のスピードで動いたり、裏切り、ずるがしこいキャラクタ は急変するモーションを見せる。これは特にディズニーアニメの動きに顕著に見 えるといえる(主人公が歩いていて、後ろからいたずらをしようと物陰から追い かけるキャラクタのスピードの違いなど)。
また、スピードの変化は、重さ、かたまりの大きさ、密度、ちからを表す こともできる。すばやく動き、すばやく止まるものは軽快さを表現できるし、止 まるのに時間がかかる場合は、ものぐさ、不活発、大質量、大重量を表現できる。 さらに、壁にぶつかって跳ね返る時に、伸縮や引き伸ばしといったアニメーショ ンの誇張表現の標識としても役立てることができる。

「リズム」
キャラクターの繰り返しの動き、最初に戻る動きまたは、動きのパターンなどについてを、リズムと定義し、流れるリズム、壊れるリズム、規則的あるいは不規則的なリズムなどという記述を行う。同じ歩くモーションでも、鈍く鈍重なリズムもあれば、生命力や自信に満ち溢れた快活なリズム、3,4歩ごとに立ち止まって辺りを見回すような、間断のあるリズムなどがある。

2.骨格

キャラクターの骨格、関節構造などの解剖学的な情報についての定義で、 リミテッド、稼動範囲が狭い、よく動ける、十分に動ける、ゴムのような弾力が あるなどの記述が考えられる。キャラクタがどのような骨格、関節のつき方をし ているかについて定義するもので、例え単純な箱でさえ、歩く擬人化アニメーシ ョンをさせるときは、手や足があるように見える。また、本当にそれらがある場 合は、人体の構造を基本としてアニメーションがつけられている。特にキャラク タを3DCGで制作する場合は、この内部構造を参照してデジタル骨格を制作するこ とになる。

一般的にシンプルな構造はシンプルなモーションを生み、複雑な骨格は多 様なモーションをもたらすことができる。胴体と肩が独立して動けるキャラクタ は、それらが関連しないと動かないキャラクタよりも複雑に動ける。

3.声

そのキャラクタの口調がおっとりしているのか、穏やかにしゃべるのか、 早口なのか、などについてのしゃべり方についての記述。また、人物でないキャ ラクタの場合は、鳴き声なども含められる。

4.表情、顔つき

しかめっ面、無表情、ぼんやりした、ころころ変わる、多様、変化しにく い、など。キャラクタの表情、顔つきについての記述。感情表現を表すための表 情と、そのキャラクタの基本的な表情である、顔つきがある。表情は感情表現に もっとも頼る部分であり、キャラクタシートにはキーとなる表情がいくつも含め られる。3DCGアニメーションでは表情集としてライブラリ化し、アニメーション をつける際に利用される。

5.ポージング

単調な変化に乏しいポーズ、大きく手足を広げたポーズ、変化の種類少な い、内に縮こまったポーズなど。
表情と並んで、キャラクタが感情表現を行う際のもうひとつの表現方法が ポージングである。また、特殊な動作(変身、呪文の詠唱、必殺技)もここに含める。

その他の構成要素群

これらは必ずしも全てのキャラクタに影響する要素ではないが、コンテン ツによってはキャラクタデザインに大きな拘束力をもたらす場合がある。

1.プロジェクトのタイプ、最終出力媒体

キャラクタの概観を決定していくときには、そのキャラクタが登場するプ ロジェクトのタイプを考慮しなくてはならない。ディズニーのような誇張表現を もったカートゥーンキャラクタなのか、リアルな動きをするキャラクタを作るの かは、プロジェクトの持つトーン、タイプによって左右される。
プロジェクトのタイプ例としては次のようなものがある。 90分のフル3DCG、30分のセルアニメ、15分のTVシリーズ用フル3DCG、10分のゲームに挿入されるカット、40分の自主制作フィルム、3分の実写と合成するための素材、2分のweb上でストリーミングするための映像など。

2. 脚本における要素群

モチベーション(超目標、行動原因)
 自己の欠落部分を克服・隠蔽するための行動原理・原動力。

ポジション
主人公、主人公のライバル、悪役、敵対者など、物語上の役割に応じた外 見、内面、動きがデザインされる。

3.設定における要素群
例えば次のようなコンテンツの設定にまつわる要素もそれぞれ影響する可能性がある。

4.その他

その他考えられる要素としては次のようなものがある。

・最終出力メディアや使用するソフトウェアによる制限
 キャラクタの外観のデザインはまた、プロダクションの制約も考慮さ れる。例えば、コンピュータアニメーションではコンピュータのリソースの制限 がキャラクタをシンプルな形にしたり、セルアニメでは作画しやすいように線情 報を少なくしたりといった要求が出てくることがある。モデリングの効率を高め るために、腕と手は別パーツとして制作できるようなデザインが出てくるのもこ のためである。その他、3DCGであれば、髪の毛、たなびくマントなどの表現はデ ザインする際に慎重に検討されることがある。

・初登場媒体、派生媒体、原作
 TVアニメ、漫画、映画、ゲーム、実写、特撮

・ターゲット
幼児向け、男向け、女向け、20〜30代

・プロダクトヴァリュー
 クライアントの希望、ユーザのニーズ、玩具の設定としての機能、商 品のプレイバリュー

以上をまとめると、次のような図になる。デザイン領域内では、外見的 要素、内的要素、動的要素がそれぞれに影響を与えあう。外見から性格を決めて いくこともあれば、内面が動きを決めることもある。

また、その他の工程領域内の要素からも影響をうける。脚本の内容から キャラクタの外見を決定したり、内面設定が脚本に影響を与え、物語進行を決定 したりする。

プレプロダクションデザイン領域

考察と展望

以上より、キャラクタデザインを行う際の構成要素をキャラクタデザイン領 域と、その他の工程領域に分けて列挙した。次のステップとしては、カテゴリご とに実際のコンテンツ作品を例に取り、各キャラクタについてそれぞれの構成要 素がどのようになっているかという、具体的なデータを打ち込んでいく。次に、それらデータを もとにカテゴリ内のキャラクタの特色、共通性について考えていく。同時に、必 要であればカテゴリの再定義を行う。

また、これと並行して、過去に金子満コンピュータアニメーション研究会に おいて制作されたコンテンツの中で企画をたてたリーダーに、制作したキャラク タについての分析を上述してきた構成要素によって分析を行うことを協力しても らう。これは、の内面については、制作者自身が設定したものなので、他人の制 作したキャラクタよりも正確性を得ることができるためである。また、もし可能 であれば、このキャラクタの制作過程を鑑みて、どのような部分を考慮、変更す ればよりキャラクタとしてのクオリティが高まるか、という考察も行っていきたい。


参考文献

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3次元コンピュータ・アニメーションの原理
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デジタルキャラクターアニメーション
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Animation Master making 3D
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Inside LightWave 3D
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3Dフォトリアリズム・ツールキット
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3Dクリーチャー・ワークショップ
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デッサンの眼とことば人物をいきいき描く知覚のアプローチ
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脳の右側で描け
ベティ・エドワード著 北村孝一訳 マール社 , 1981.1

内なる画家の眼 : 創造性の活性化は可能か
B.エドワーズ著 北村孝一訳 エルテ出版 , 1988.6

87%の日本人がキャラクターを好きな理由 : なぜ現代人はキャラクターなしで生きられないのだろう
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栗原恒弥, 安生健一著 東京 : 技術評論社 , 2003.3

3DCGデザイン
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3次元コンピュータ・アニメーションの原理
3Dコンピュータグラフィックスによるモデリング、レンダリング、アニメーション

M.オローク著 ; 袋谷賢吉, 大久保篤志共訳
東京 : トッパン , 2000.11

キャラクター小説の作り方
大塚英志著 東京 : 講談社 , 2003.2

CGWORLD Vol.58 June 2003 特集1 モデリング成功の法則
CGWORLD Vol.29 January 2001 至高のモデリング術
CGWORLD Vol.46 June 2002 いきなりモデリングマスター

「生命を吹き込む魔法」
フランク・トーマス, オーリー・ジョンストン著 ; スタジオジブリ訳
徳間書店スタジオジブリ事業本部 , 2002.4

「ゲームシナリオ作法」
川邊一外 東京 : 新紀元社 , 1999.11

「季刊コミッカーズ 秋号 2003」
美術出版社

「キャラクタデザイナー ISSUE.2 04年冬」
ワークスコーポレーション


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