IVV実験の大規模化と実験データの解析

 In vitro virus (IVV)法は慶應義塾大学理工学部の柳川研究室において開発された タンパク質間相互作用(PPI)を検出する新規実験手法である(Miyamoto-Sato et al., 2005). PPI検出のための従来型の実験手法としてはファージディスプレイやイーストツー ハイブリッドシステム(Y2H)などが存在するが,これらは網羅的なPPI検出には 対応しておらず,IVV法と比べ異なる検出感度特性も存在する.そしてIVV法の高い 検出感度はIVV法の核となるピューロマイシンテクノロジー(Miyamoto-Sato et al., 2003) によるところが大きい.IVV法は本来タンパク質合成の阻害剤であるピューロマイ シンを翻訳系に極めて希薄な状態で混在させ,それがペプチド鎖のC末端に付着する 性質を用い,ペプチド鎖・ピューロマイシン・鋳型mRNA(ピューロマイシンに対し 特異的に結合する処理済)の複合体を形成する技術である.これにより,PPIが検出 された対象のタンパク質をコードするmRNAの塩基配列が確認でき,RT-PCRおよ びシーケンシングという比較的単純な実験手法で相互作用するタンパク質を検出する ことが可能となった.

 また,IVV法によって作製した分子はタンパク質のランダムなドメインの一部を用い ているため相互作用に関わる領域を特定できるという点についても,従来の結晶構造 解析などに比べ容易な実験手法といえる.さらに本年度,IVV法のロボット化が実現し, 同時に最大96 ベイトのPPIをおよそ1ヶ月で検出することが可能となった.これに伴 い大量のPPI情報が得られることになる.さらに,得られたプレイタンパク質をベイト としてPPIを確認するという技術も確立しているため,複雑なタンパク質の複合体やPPI ネットワークを把握することも可能と考えられる.

 以上に述べたように,IVV法によるPPI研究においては,大量で複雑性を伴うデータ が出力されることから,in silicoでの解析の重要性は非常に高いと考えられる.
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