目的

 まず,IVV法により特定のベイトと相互作用のある領域を持つプレイが抽出される. 次に抽出されたプレイに関してRT-PCRとIVV法の行程を繰り返すことで,プレイの濃 縮を行いベイトに対して非特異的なプレイの排除を行う.その結果得られる濃縮された プレイに対応する塩基配列をシーケンシングすることで,PPI部位を特定することがで きる(図1A).この配列情報を利用し,ある遺伝子とそのスプライスバリアントにお いて,タンパク質間相互作用部位の有無や一部欠損等の変化が生じていることが確認さ れた場合,その選択的スプライシングは生体内において機能的な役割を有しているもし くは異常なスプライシングパターンをとり,疾患の要因に成りうるという仮説が立てら れる.さらに,通常のスプライシングパターンと選択的スプライシングによるスプライ シングパターンによって生じるタンパク質についてもベイトを作製し,IVV法によるPPI を確認することで,双方に共通する相互作用,変化する相互作用を検討することができ る(図1B,C).

 以上を踏まえ,2005年9月までに機能的スプライスバリアントの網羅的抽出手法を構 築した.手法構築に際しては,あらかじめ既存の選択的スプライシングパターンを 'cassette', 'internal donor site', 'internal acceptor site', 'exclusive', 'retained'と呼ばれる5つの構造に分け,それぞれに分類するシステムを考えた.

 システム構築に際しては,公共の選択的スプライシングデータベースにおいて最も網 羅性の高いthe Alternative Splicing Database (ASD) Release 2 (Lee et al., 2003) のcDNA配列情報およびIVVデータに対してBLAST (Altschul et al., 1997)を用いた相 同性検索を行い,さらにBLAST結果から次の4条件を満たすものを解析対象として抽出 した: (i) アライメント領域≧60bp,(ii) %identity≧90,(iii) e-value≦1e-20, (iv) strand Plus/Plus.この解析対象についてASDが持つエキソン・イントロン構造の 情報を付加し,その遺伝子における各スプライシングパターンと比較することで選択的ス プライシングによりPPIが変化する遺伝子を網羅的に検出した.以上より選択的スプライシ ングによってPPIに変化を及ぼす可能性がある遺伝子が26個抽出された(表1).

 今回は,構築したシステムおよび実験データの検証を目的とし26例のうち肺ガン関連 遺伝子および転写制御遺伝子について相互作用変化の確認を行っている.

表1
使用したIVV配列数 2922 seq.
使用したIVV遺伝子数 1214 genes
ASD Human Release 2にエントリーされている配列数 8572553 seq.
ASD Human Release 2にエントリーされている遺伝子数 16293 genes
選択的スプライシングに関わる遺伝子数 26 genes

図1 (以下,図の説明)
preyタンパクに付着しいている○はピューロマイシン,線はmRNAを示している. bait Aに対して,Prey B,C,D,Eとの相互作用が確認されたとする.Prey Dは false positive であるが,濃縮を繰り返すことで除去可能である.次にprey Eのド メインを持つタンパク質をbaitとし(bait E'),タンパク質間相互作用を確認する. その結果,prey A,F,G,Hが確認されたとする,Gは既知のORFとの比較,Hはbaitな しのIVV実験結果に基づき配列確認の段階で除去し,prey A,Fとの相互作用のみが抽 出される.さらに,prey Eのドメインを持たないbait E’のスプライスバリアント (bait E'')のIVV実験によってprey Fとの相互作用が確認された場合,タンパク質A はEを介してFと相互作用していると予想できる.仮にタンパク質Fが生体内でPPIの HUBになっていることを示すことが出来れば,選択的スプライシングの機能性を示す 有用な成果を挙げることができる.
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