2011年度森基金研究成果報告書

巨大 DNA を接合伝達で伝播する枯草菌ベクターの開発

 

一之瀬太郎

政策メディア研究科 博士課程2

 

序論:

遺伝子組み変え技術は分子生物学研究において必須の技術である。しかし, ゲノムサイズの巨大な DNAを大腸菌の遺伝子工学的手法で取り扱うには制限がある。そのため, 巨大なDNAを安定に取り扱う技術を確立する事は, 今後の学術・産業・医療への応用と発展にとって非常に重要な課題である。

巨大な DNA を取り扱うための手法としては, 慶應大学の板谷によって枯草菌のゲノムベクターが開発されている。既存の研究によって, 外来からの遺伝子導入と染色体中への組み替え能力に優れる枯草菌には, 従来の手法で一度に取り扱えない大きさのDNAを構築, 保持できる優れたツールとしての特性がある事が示されている。そのため今後の課題として, このように構築したDNAを枯草菌から目的の細胞へと移動する手法を確立することが重要となっている。

DNAの細胞間移動現象として知られているものの中で, 接合伝達はこの手法への応用に高い適性を持っている。接合伝達は枯草菌にも存在する, バクテリア間におけるDNA輸送現象である。接合伝達の例として, 大腸菌のHfr株で染色体レベルの巨大なDNAが丸ごと移動するという事, そして一部のplasmidでは種の異なる生物の間でも細胞間の移動が起きた事が報告されている。これらは巨大なDNAを輸送する際に非常に有利な特性であり, 高い応用可能性を示している。私の研究課題は, DNA再構築の場として優れている枯草菌を用いて, 巨大なDNA配列を接合伝達によって細胞間移動させる系を確立する事である。

 

成果:

先行研究により, 枯草菌で働く接合伝達ベクターと接合の効率を評価できる実験系が確立されている。この実験系を用いて, 本来接合伝達で移動しないplasmidベクターを接合伝達で移動させることを試みた。詳細は論文執筆中の為に伏せさせていただくが, 枯草菌の接合伝達に必要な因子を接合伝達で移動しないベクターに搭載する事で, それを枯草菌間接合伝達で移動させることに成功した。

また, 枯草菌間における接合伝達系の汎用性を拡張する事を目的として, 既存の実験系で用いていた株とは異なった遺伝背景の枯草菌を用いて接合伝達を行う事を試み, 実験系の汎用性と, 枯草菌の遺伝背景の違いが効率に及ぼす影響について調べた。結果として, 既存の実験系よりも効率の高い枯草菌株の組み合わせを得ることも出来た。巨大なDNAの安定移動には, 接合伝達の効率も重要と考えられる。よって, 効率の良い組み合わせに対しての知見は, 巨大DNAのより安定な移動系に生かせると考えている。

今後はこれまでの成果を組み合わせ, より大きなDNAを移動させることを試みる。

 

学会発表:

ゲノムデザイン学:汎用性接合伝達ドナー株による枯草菌間のDNAの効率的移動

34回日本分子生物学会年会

一之瀬太郎, 大谷直人, 冨田勝, 板谷光泰

 

 

 

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