2014年度森基金研究成果報告書

「胎児期の心筋細胞における収縮機構の
シミュレーションに向けたモデルの統合」

政策・メディア研究科修士1年 先端生命科学プログラム(BI)

瀧口真央

学籍番号:81424521

ログインID:maota

要旨

 今年度は,胎児期の心筋細胞における収縮機構のシミュレーションモデルの統合というテーマで研究を行なった.
 哺乳類の心臓は2心房2心室の構造を持つ.しかし,発生初期から2心房2心室の構造をとるわけではない.心臓は個体発生の過程で,形だけでなく蛋白質の蓄積量の変化(大石, 2008)や,心筋細胞において,胎児と成体では異なるアイソフォームを持ち心臓発生の各段階で変化をすることが分かっている.心筋細胞でのアイソフォームの変化はミオシン重鎖(Myosin heavy chain:MHC)とトロポニンI(Troponin I:TnI)に見られる.ラットの心室のMHCでは,生後5日頃にβMHCからαMHCへ,TnIでは,骨格筋型トロポニンI(slow skeletal TnI: ssTnI)から,心筋型トロポニンI(cardiac TnI: cTnI)へと切り替わる (Warren et al., 2004).MHCのアイソザイムの割合の変化は,筋収縮時のATPase活性や筋収縮の速度に変化を及ぼし,TnIにおいてはCa2+の感受性に差を生じさせることが分かっている.こうした発生過程によるアイソフォームの変化が胎児期・新生仔期と成体間において心拍数やエネルギー効率に違いを生む(福田, 2001).
 心臓の駆動力は心筋細胞の収縮により生じる.筋収縮は,基本単位となるサルコメアを構成するアクチンフィラメントとミオシンフィラメントが互いに滑り込む事で起こる.ATPase活性を持つMHCがアクチンフィラメントに結合し筋収縮のエネルギーを生む.TnIは,トロポニンC(TnC)とトロポニン T(TnT)と共に複合体としてアクチンフィラメントの表面に存在し,静止時にはアクチンとミオシンの結合を妨げる役割を果たす.
 本研究では,胎児期・新生仔と成体での収縮機構を比較を行なうため,Kyoto modelにNiedererら (2006)の収縮モデルを統合した.その結果,Kyoto modelと収縮を測る指標とCa2+の定義が類似する点から収縮部分のモデルの入れ替えが可能なことが確認出来た.胎児期の心筋細胞での収縮機構のシミュレーションが出来れば,低酸素状態における心筋細胞の振る舞いを予測することが可能となる.また,心肥大などの疾病は胎児期に発現していたアイソフォームを再発現する事も知られている.再生 能を持たない成体の心臓において,心筋梗塞などの疾病により酸素の供給が困難な状況に陥った時に心 臓の収縮を維持するための手がかりとなる予測データを得る事が可能であると考える.


2014 Project Report(全文)