多重解像度解析

ウェーブレット変換の周波数分解能は、式(4.6)におけるスケーリングパラメータに依存する。が大きくなると、ウェーブレットは周波数軸方向に伸張し、時間軸方向に萎縮する。その結果、周波数分解能が低くなり時間分解能が高くなる。一方が小さくなると、逆に周波数分解能が高くなり時間分解能が低くなる。この概略を図4.7に示す。

Figure 4.7: ウェーブレット変換による時間周波数解析の概略図

この図が示す通り、1つの原信号に対してマザーウェーブレットを複数のスケールに拡大縮小して解析を行う。このように複数の``スケール''[*]で解析を行うため、それぞれのスケールが解析周波数に対応する。すなわち、例えば中心周波数が100Hzのマザーウェーブレットを0.5, 1.0, 1.5, 2.0倍にスケーリングすると、中心周波数がそれぞれ50Hz, 100Hz, 150Hz, 200Hzのウェーブレットの族ができる。これらのウェーブレットと原信号との積分をとることで、原信号とウェーブレットの族との相関を計算する。これに等のパラメータを付加したものがウェーブレット係数となる。よってウェーブレット変換による解析結果では、フーリエ変換のように「100Hz帯の係数が10、200Hz帯の係数が5」というような解析結果ではなく、「スケール1の係数が10、スケール2の係数が5」というような解析結果となる。そしてこの「スケール後の中心周波数」はマザーウェーブレットによりそれぞれ異なるため、これの選定方法によって結果が大きく変動することになる[*]

離散系列 に対する離散ウェーブレット変換を以下の通り定義する。

(18)
(19)

の内積を表す。このとき、を``ウェーブレット係数''と呼ぶ。ウェーブレットの族が正規直交系となるようにマザーウェーブレットを構築した場合、任意のはウェーブレット係数とウェーブレットの線形結合で表現できる。すなわち、 に対して の張る空間をとすると、 について、
    (20)
    (21)
    (22)

を満たすとき、
(23)

となり、 は複数の周波数分解能(解像度)によって原信号を構成する。これを「は多重解像度解析をなす」という。

root 2010-02-26