「環境問題における情報技術の効果」
〜企業と個人の新たな関係性の構築〜
■Introduction
自然環境問題の危機が叫ばれて久しいが、実際、どのような政策が行われ、それに対して、結果、どのような成果を得ているのかを実感する機会は、非常に乏しい。ここでは、将来的にも、地域的にも有効な自然環境政策の可能性について考えていきたい。私自身の問題意識としては、環境改善のための技術開発と同時に、個々人の日常生活における価値観やライフスタイルの変革こそが、環境政策において、必要最低条件のように感じている。
個々人が、いかに、地球環境を自分のものとして実感できるか否かが、これからの環境政策を大きく左右してくるであろう。そのために、「何が必要なのか」、あるいは、「私たちにできることは何なのか」について考察していきたい。そこで、個人のライフスタイルの変革を可能にする手段として、「情報技術」に注目する。そして、自然環境問題への情報技術の効果について、インターネット経済が消費者に与えるエネルギー節約・環境保全の効果の観点から考察していく。
■Chapter 1 問題意識
〜なぜ、自然環境問題に情報技術が必要なのか〜
さまざまな分野における情報技術の可能性への期待が高めるなかで、情報技術は自然環境問題にどのような影響をもたらすのか。最近の動向や、あらゆる未知の可能性のために、環境問題においても期待は膨らむばかりである。しかし、ここでは、「そもそも、環境政策に情報技術に必要なのか」、そういう根本について、考察をしてみたい。そのために、自分自身の問題意識をもとに、なぜ、情報技術が必要なのかを考えてみたい。なぜなら、「どこが、従来のエネルギー革命や産業革命とちがうのか」、これらを明確にする考察こそが、今後の情報技術の可能性を左右していくものだと認識しているからだ。
まず、自分の問題意識について書く。そもそも、「環境問題の問題」について述べたい。私自身、環境問題の問題は、個々人の「空間的無自覚」と「時間的無自覚」であると考えている。「空間的無自覚」とは、いまの自分の行動が、最終的に、どこの地域に影響を与えるのかを自覚していないことである。例えば、ゴミをだして、自分の目の前から消えてしまえば、ゴミ処理における社会的負荷などを考えることもない。さらに、世界に目を向ければ、環境規制の緩い途上国への技術移転によって、先進国が経済効果を得てきたという過去の事実は否めない。自分の生活領域に被害が及ばないものは、環境破壊・環境問題と認めない。さらに、「時間的無自覚」とは、自分の行動がもたらす環境負荷が瞬間的に自分にフィードバックしないことから生じる無自覚であり、深刻な問題への鈍感さのことである。この無自覚さが複雑に絡み合い、さらに、問題を複雑化しているのではないか。私自身は、このような問題意識をもっている。
この混沌とした、無自覚の世界を切り開くものとして、個々人が、必要な情報を共有していくことこそが求められているのではないか。そして、それを可能にする手段として、「情報技術」を捉えている。「情報技術」を環境問題に取り入れていくことは、「目的」ではなく、「手段」に過ぎないのである。
必要な情報を共有することによって、個々人は、自己と他者の関係性を認識することができ、そのなかで、「環境問題の問題」を可視化・体感できるのではないかと考えている。
つまり、「情報技術でなければ実現し得ないもの」と「環境政策に求められているもの」は、同質のものなのではないか。
さらには、情報技術によって生じる「情報の価値」と私たちの身のまわりの「自然環境の価値」は、性質や流通において、「利益者を特定できないこと」、「市場の価値に変換されにくいこと」など、多くの共通点を備えているのではないかと感じている。
この意味において、自然環境問題への情報技術の活用に、大きな期待を寄せるとともに、その活用の方法について、提案していきたいと考えている。

■Chapter 2 研究意義
〜どの分野で、情報技術を生かすことができるのか〜
情報技術の必要性を認識したうえで、では、どの分野で、情報技術を生かすことができるのかについて、考察していきたい。
そこで、自分の問題意識をもとに、どこの分野で、その活用が望まれているのかを、以下に図示する。ここでは、横軸で「対象や利益の公共性の高さ」を示し、縦軸に「解決に向けた社会システム」を提示する。そうすると、そこには、大きく分けて4つの領域ができあがる。
「公共性」が高く「市場」を利用するものとして、環境税やCVMなどの経済学手法が考えられる。そして、「公共性」が高く「ボランタリー」なものとして、環境NPO・NGOが存在する。一方で、「利益を受ける対象」が明確で、かつ、「市場」を利用したものとして、環境ビジネスがあり、そして、「利益を受ける対象」が明確で、「ボランタリー」なものとしては、「地域ボランティア」が考えられる。
これらを踏まえたうえで、「情報技術を活用した環境政策」の位置づけを考えてみると、以下の図のなかの灰色の部分になるのではないかと予想している。「個人が受ける利益」が明確でありながら、高い「公共性」を帯びているような領域をつくり出すことができるのではないか。それを可能にするシステムについては、「市場」なのか、「ボランタリー」なものかは、まだ、分からない。しかし、私自身の考えとしては、それらにおいて、新たな共生の形が生まれるのではないかと感じている。その1つとしては、「企業とNPOのコラボレーショオン」に期待を寄せているところでもあるし、自分としても、その共生の道を提案していきたいと考えている。
■Chapter 3 自然環境と情報技術の関係性
情報技術のどの要素が、自然環境問題のどの要素に影響を与えているか整理・分析する。
◆1 整理
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A:ITの要素(情報の収集・蓄積・分析・共有・伝達)
B:環境問題の要素(持続可能な発展の推進)
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◇地球白書2000
「環境と情報技術は、@製造・使用・処分の影響、Aモニタリングとモデリング、
Bコミュニケーションネットワークの3つの分野で関係がある」
@製造・使用・処分の影響
→半導体・回路基板・モニター装置の製造の際に使用される有害化学物質の現状把握
Aモニタリングとモデリング
→東南アジアの熱帯雨林火災のひろがり、南極上空のオゾン層破壊、
アラル海の縮小状況、環境シナリオ(都市交通の選択肢、世界の化石燃料の燃焼)
(→現状把握と将来予測)
Bコミュニケーション・ネットワーク
→遠隔地への情報伝達→教育プログラム拡大、医療情報・応急処置情報の提供
田舎の農家・企業家の都市市場へのアクセス拡大
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◇電気通信審議会
→情報通信を活用した地球環境問題への対応に関する答申
Point↓
CO2排出削減に寄与する情報通信システムを洗い出し、その中から、
主要な情報通信システムについて、CO2排出削減効果を定量的に分析。
情報通信の活用によるCO2排出削減のための施策として、総合的な施策を提言。
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◇インターネット経済・エネルギー・環境
→「インターネット経済それ自身が構造的成長と効率向上的成長の
両方を生み出し、両者が同時に重要である」
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◆2 分析
以上の情報収集・整理をもとに、日本での期待される効果について、以下に図示しながら、分析していきたい。横軸には「環境負荷」の程度を示している。右へいくほど、それは、軽減される。そして、縦軸には、「行為者」として、企業と個人を対立させた。
そして、ここでは、情報技術を環境問題に活用することによる、「企業」と「個人」の変化に注目する。「企業」をこの情報技術を利用することにより、「企業利益と環境保全との整合性のとれた関係」を構築していくのではないか。企業にとって、環境保全はイメージアップや慈善事業の枠を超えるものになるのではないかと感じている。企業の経営戦略の手段としての環境保全も、近いうちに、実現されるだろう。一方、「個人」にとっては、情報技術を通して、他者との関係性を知ることにより、「環境問題の問題」を可視化・体感していくことが可能になるであろう。
さらに、これらの「企業」と「個人」の変化を促す要因として、「企業と個人の関係性」にも注目したい。情報技術により、情報や価値観やライフスタイルをネットワークされた「個人」やそれらの集合体である「コミュニティ」には、さまざまな「価値」が創造されてくるであろう。そのなかには、「市場」というシステムには適さないけれども、社会的価値として有意義なものも含まれているであろう。それら、個人やコミュニティにおける社会的価値を、社会でより有効に生かしていくシステムが求められる。一方、「企業」は、企業利益と環境保全の共生の手段を模索している。その手段として、「企業」は、個人やコミュニティで生まれた価値を活用していくべきなのではないか。ここにこそ、企業と個人の新たな関係性が構築される。その両者の媒体となるものとして、「NPO」や「地域通貨」は、大きな役割を果たしていくのではないか。

■Conclusion
Key Words 自然環境問題と情報技術/空間的無自覚と時間的無自覚/
コミュニティのネットワーク化/環境NPO
環境政策は、「理想」と「現実」とが錯綜する世界である。しかし、理想を掲げているほど、自然環境問題の事態は緩やかなものではない。京都議定書で掲げた目標に対して、現実に、どれだけの成果が出せたのか、出せなかったのかは、すでに、明確である。必要なのは、「実行力」と「適格な評価」と「迅速な修正」である。これだけの専門家がいて、なぜ、環境問題の事態が変えられないのか、変えないのか、そんな疑問さえ生じる。
そこで、この考察においては、有効な自然環境政策への1つの提案を行いたい。私自身は、「情報技術の自然環境政策への影響」に大きな期待を寄せている。自然環境問題における問題は、個人の「空間的無自覚」「時間的無自覚」に大きく依存していると考える。ゴミを例として、「空間的無自覚」とは、自分の目の前からゴミがなくなれば、その自分のゴミが地球環境に与える影響を自覚できない。そして、「時間的無自覚」とはゴミから発生する化学物質が世代を超えて影響を与えるということに気がつかないということである。これは、個人のゴミ問題からはじまり、世界的な環境問題においても、共通していることであろう。そして、それらの無自覚が重なり合うことで、さらに、問題は複雑化する。
この問題を解決するために、何が必要か。そこには、「個」と「全体」の関係性の把握が求められているのではないか。つまり、「自分の行動」と「それが地球環境に与える影響」を体感するために、その関係性を可視化していくことが求められていると、私は考える。環境政策への技術開発と同時に、個人の意識・行動の変化による自然環境保全への新たなアプローチが必要なのではないか。私は、それを可能にする手段として、情報技術を捉えている。個人の情報や価値観をネットワークすることにより、いままで無自覚だったものが体感できるのではないか。つまり、自己と他者、自分と自分の地域、自分と自分の国、自分と自分のまわりの国、自分と地球という、小さなコミュニティのつながりを連続させることで、「個」と「全体」との関係性の把握が可能になる。さらに、コミュニティをネットワークする際、環境NPOなどが、大きな役割を担うのではないかと期待している。
また、ここで、情報技術の環境問題への適用の具体例を1つ挙げる。個人がゴミを捨てるとき、そのゴミが捨てられた後の情報を、新たな情報技術によって、その個人が瞬時に知ることができれば、その個人の行動選択に何かしらの影響を与えることは可能となる。私が求める、情報技術は、理論的な環境教育や意識啓発を行うものではなく、今までなかった情報を入手する手段に過ぎない。空間と時間を圧縮し、それを個人が体感する手段として、情報技術を捉えている。自然環境問題の問題になっている要因と、情報技術でしか実現できない要因とが一致しているように私は感じている。もちろん、情報を得た後は、各自の判断に任せる。しかし、個人の生活におけるさまざまな判断において、その情報は有意義なものになると確信している。
このような情報技術の環境問題への適用による、個人のライフプランの変化こそが、国内・国際政策を理想で終わらせない重要な要因になるのではないか。国内、さらには、国際政策にとって、個々人の意識・行動の変革こそが最小条件であり、かつ、最大条件でもあるのではないか。
□参考文献
ワールドウォッチ研究所「地球白書2000」(2000年)
第7章"Harnessing Information Technologies for the Environment"
ジョセフ・ロム他「インターネット経済・エネルギー・環境」(2000年)
電気通信審議会答申「情報技術を活用した地球環境問題への対応」(1998年)
IPCC - WG3 TAR
Chapter6 POLITICS , MEASURES AND INSTRUMENTS 15 May 2000