2005/2/28

まとめ





本研究では、谷戸類型において谷戸の類型化を社寺の有無、法規制、土地利用から行って、鎌倉における谷戸の特質を明らかにした。宗教的谷戸空間の景観構造分析では、抽出された谷戸の中から、特徴的な社寺を有する宗教的な谷戸に焦点を絞り景観構造の分析を行った。
 
谷戸類型では、分析の結果、
  1. 旧鎌倉地区では、歴史的風土を構成している、社寺を有する谷戸を中心に法規制を整備している
  2. 旧鎌倉地区には、谷戸の内部を寺が占有する特殊な谷戸が残っている
ということが明らかになった。
一方、社寺を持たない谷戸は、地域特性に関係のない法規制と土地利用になっていることが明らかになった。 今回は、現在鎌倉に存在する谷戸の数と特徴を明らかにすることを目的としたため、3つの指標を用いた。この類型結果を基に、中世の都市構造からの視点や地形構造や地質など自然環境の視点を加えることで、個々の谷戸が保有する奥深い魅力―たとえば、中世社会での立地の意味や生物多様性、住環境など―を顕在化することが出来ると考える。
次に、北鎌倉の代表的な3つの谷戸に焦点を絞り、分析を行った。その結果、
  1. 領域を規定する地形構造と、コアとなる七堂伽藍の構成が、時代の変化に対して永続的に維持されてきた
  2. 景観構成とシークエンスは、地形条件が異なっていても同様の目的と効果を有し、宗教空間へ人々を誘導している
  3. 奥の空間と門前空間における現状は、各谷戸によって異なっている
ということが明らかになった。 
 
今回は、宗教的谷戸の基本的な景観構造を明らかにするために、谷戸と寺院との関係が最も明確であり、資料が豊富な代表的な寺院を対象として研究を行った。今後は、社寺を有する谷戸の中でも、旧鎌倉で最も多い宅地化された谷戸に焦点を当てることで、宅地―谷戸―寺院の相互の関係性や、立地と住環境の関係を明らかにすることが出来ると考える。
以上より、本研究では、鎌倉市に対し、これまで個別に行われてきた、文化財、山林といった個々の要素の保全ではなく、複合的な視点から歴史的環境保全を行うための具体的な手法を明らかにすることができた。実地調査が不十分だったため、具体的な実現策や景観創出策を提示することができなかった。最後に述べたとおり、谷戸を構成する丘陵>谷戸空間>門前空間という3つ景観構造の観点から鎌倉地域の景観計画を策定し、北鎌倉が保有する多様な歴史的資源にふさわしい宗教的谷戸地域を計画することが、重要な課題であると考える。
 
 

2004年度の成果
●2004年5月 (社)日本造園学会大会において研究発表 「ランドスケープ研究Vol.67(5)」掲載
『円覚寺に見る古都鎌倉における谷戸空間の景観構造に関する研究』
●2004年   (社)日本造園学会研究発表論文投稿(2005年5月発表予定)
『建長寺に見る古都鎌倉における宗教的谷戸空間の景観構造に関する研究』
●2004年   修士論文提出
『ランドスケープ・マネジメントによる歴史的環境保全に関する研究 −鎌倉市を対象として−』
 


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