鶴岡リビングネクストコンソーシアム

Tsuruoka Living Next Consortium

開設2023年1月1日
代表者
小林 博人
政策・メディア研究科 教授

※構成メンバーの所属・職位および本ページに記載の内容は、本団体設立当時のものも含まれます。ご了承ください。

■背景

一極集中による利便性や効率性を追い続けた都市は、コロナ・パンデミックを経験した今、人々が日常的な生活を送る場としての意味や価値を改めて問われている。一方、地方地域における豊かな自然環境や地域文化に触れる、日常の生活に重きを置いた住まい方への関心が高まっており、次世代のための都市と地方を結ぶ新しい生活形成のあり方の探求、およびその実装に向けた具体的な方策が求められている。

我が国における地方の抱える課題として、少子高齢化や都市への人口集中による地域産業の衰退や居住人口の減少があり、その結果多くの住宅が空き家化し、それらの建物や土地の有効な活用方法が模索されている。他方で、住宅建築を始めとする建設業界においては、地球環境保全の目的に即したエコロジーへの視点、サステイナブルかつ安心・安全な生活のための先端技術に裏付けられた建築のスマート化、先端技術によるローカルな建築作りなどへ関心が高まっており、新しい建築のあり方が研究されている。

 

このような状況の中、慶應義塾大学鶴岡タウンキャンパスにおける先端生命科学の研究を中核とする鶴岡サイエンスパーク周辺では、既に研究所および複数のベンチャー企業の進出のために多くの若手研究者・起業家が居住しているとともに、研究への参画を目的とした大都市の企業から派遣される研究者を毎年受け入れており、地方居住の機会を得た研究者が鶴岡市内に居住している。これらの研究者は通常数年の間、家族同伴で市内の都市型の集合住宅に居を構えて生活するケースが多く、地方における生活は未だ都市との関係によってのみ成立しており、地方地域における生活自体を家族とともに享受し、楽しむところにまでは至っていない。

また、鶴岡サイエンスパークは2022年国土交通省東北地方整備局により二地域居住推進事業のモデル都市に選定され、都市と地方を結ぶことを標榜するまちづくりの先端的事例として期待されており、これからの地方都市における居住の可能性についてこの地で検討するのが相応しいと考えている。

これからの時代に求められる新しい都市と地方の良さをともに享受するライフスタイルを考えるとき、都市における人・情報・モノ・資金の集中による就労を中心とした生活は見直され、情報技術の発達や、土地が固有に有する環境や文化の豊かさへの関心から、より地方居住による新しいライフスタイルへの希求が高まると予想される。地方地域の自然環境を身近に感じ、その地域固有の生活文化に触れ、子育てや自分らしい生活を創造することのできる、日々の生活に軸足をおいた人間らしい生活の希求、その場所づくりがこれからの新しいライフスタイルには求められている。国策としての地方創生および東京一極集中の回避という観点から、東京の大企業はサテライトオフィスを地方に設置して、本社機能の一部を移転すること等が期待されている。それに伴い、今後ますます社員の二地域居住の機会が増えることが予想され、社員およびその家族に満足度の高い革新的なワークライフを率先して提供することで、先導的企業としての価値を高めると考えられる。

■目的

そこで鶴岡市において、サイエンスパークの周辺にある複数の集落を対象に、そこに散在する空き民家やその土地を活用した新しい地方居住の可能性を見出し、今後の地方地域における居住について現実的かつ即効性のある解答を見出すプロジェクトを計画する。

提案する建築単体のデザインの新規性・有効性のみならず、土地に根ざした地域性を考慮した材料選定や構造・構法についても包括的に検討する。また、既存の集落との関係に注目し、集落の生活文化を理解するのみならず、その将来に向けた保全や発展の可能性の検討など、既存コミュニティに対する働きかけも同時に検討することが必要であると考える。

これらの住居を複数戸自律分散的に計画し展開することにより、鶴岡サイエンスパーク周辺の集落全体の新たなネットワークを形成し、既存の集落のまとまりに加え、より強力なコミュニティ形成に寄与するとともに、それぞれの家庭の独立した生活文化の形成にも貢献できる仕組みづくりを行うことも目的の一つである。このプロジェクトを通し、地方地域における居住の可能性を積極的に検討することにより、都市環境における生活に限らず地方地域における生活がこれからの時代に求められる生活環境となりうることを示していきたい。協賛する企業各社のメンバーが多く居住する都市のオールタナティブとして、鶴岡サイエンスパーク周辺における地方居住の可能性を示すことで、これからの日本の日常生活に求められる意識を明らかにし、それぞれの企業の将来に向けた業務の一助とすることもこのプロジェクトには求められている。

 

研究活動計画の概要

  • 1年目

(調査)

初年度は、全国における地方居住の課題や可能性を見据えた上で、対象地である山形県鶴岡市においてそれらの実態を調査し把握する。

具体的には、人口動態と空き家化の関係の把握、空き家の実情と活用可能性の把握、集落の居住実態の把握、地域産業の現状把握、コミュニティの活動と環境制御の把握など、地域に根ざした集団と個の関係を明らかにするとともに、空き家を中心とした居住環境・構造強度に関する調査・実験を行う。

米国ハーバード大学大学院デザインスクール(GSD)およびマサチューセッツ工科大学(MIT)研究所との協働により、地方地域における居住環境に関する模擬的空間創造を行う共同研究を開始し、新しい居住形態の検討を行う。

 

  • 2年目

(構想)

2年度は、初年度の調査に基づき、これからあるべき地方居住のあり方を考察し、単体としての建築および集落の一部としての役割を果たす望ましい建築を構想する。

具体的には、鶴岡市における自然環境や集落の生活文化に根ざした魅力ある居住のあり方を、鶴岡サイエンスパークにおける都会からの赴任研究員の生活をモデルに構想し、望ましい生活環境を考察し、計画する。

地域材を用いた施工に関する先端技術の応用可能性を検討する。

GSD・MITの研究者との協働により、ローカリティに根差しかつ先端技術に裏打ちされた新しい建築の構法と形態の検討を行い、具体的な建築設計に向けた示唆を得て、モデルハウスの基本設計をまとめる。

 

  • 3年目

(実験)

3年度は、2年度の計画に則り、個別の建築のモデルハウスの設計および一部の施工を行い、目的に適った計画であるかの検証を行う。

具体的な土地に対する建築の設計・施工を行い、モデル家族の生活を想定し、計画案に対する修正検討を行う。

GSD・MITの研究者との協働により、ローカリティに根差しかつ先端技術に裏打ちされた新しい建築の構法と形態の設計・実装を行い、具体的な建築計画に向けた示唆を得る。

構成メンバー

小林 博人代表 政策・メディア研究科 教授
研究統括
冨田 勝 環境情報学部 名誉教授
地域および企業協働研究関連指導
坂 茂 株式会社坂茂建築設計 代表
建築設計指導
佐野 哲史 理工学部 専任講師
地域環境・施設計画担当、事務局
山中 大介 ヤマガタデザイン株式会社 代表取締役
ビジネスディベロップメント担当
齋藤 直紀 建築設計事務所GROUP 代表
施設設計・改修計画担当
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