量子インターネットタスクフォース

開設2020/7/1
URLhttps://qitf.org/
代表者
バンミーター・ロドニー
環境情報学部 教授
連絡先
村井研究室
E-mail:contact[at]qitf.org
[at]は@に変換してください

※構成メンバーの所属・職位および本ページに記載の内容は、本団体設立当時のものも含まれます。ご了承ください。

■目的

計算と通信によってIT革命が起こり、情報化社会が発展してきた。来る本格的な量子技術時代には、量子コンピュータと量子インターネットが新たなIT革命を引き起こすであろう。量子情報技術は現行情報技術(便宜上、以下デジタル情報技術と呼ぶ)と異なる計算原理を持ち、デジタルコンピュータやインターネットでは実現できない機能やアプリケーションを実現できる。特に空間を超えて量子情報の恩恵を活かしていく試みが量子インターネットであり、着実に研究開発を進め、次世代インフラとして実現しなければならない。

既に分かっている量子インターネットアプリケーションを一部紹介する。まず、量子データの伝送による量子コンピュータ同士の接続がある。これにより、分散処理を量子で実行でき、ビザンチン将軍問題に代表される、分散コンピューティング環境でしばしば発生する問題を高速に解けることが明らかとなっている。実は、デジタル通信に比べて、通信ビット数(量子ビット数)を指数関数的に削減できる問題が存在することも判明している。分散性に意味を見出さずとも、量子コンピューティングのスケーリングにも役立つ。複数の量子コンピュータを接続して仮想的に一台として扱うことで、より大規模な問題を解けるようになる。量子コンピュータから離れると、量子コンピュータでも解読できない暗号通信、情報漏えいの恐れがないクラウド処理など、攻撃者とのいたちごっこを抜本的に解決するセキュリティ・プライバシー技術や、デジタル通信技術では成し得ない超高精度な時刻同期、量子センサーのネットワーク化により従来のセンサーでは捉えられなかった信号を精緻に捉える超長基線電波望遠鏡など、情報分野に限らず重要で波及効果が期待できる利用方法が提案されている。人類の継続的発展、IT技術のサステナビリティ、安全保障、科学など、応用分野は幅広い。

 

量子インターネットの研究は現在までに着実に進んできている。量子インターネットにおける各地点(ノード)において量子データを処理する部分は量子コンピューターと類似の部分であるので互いの技術進展を利用することができる。量子インターネット特有なのは、遠いノード間の通信部分であり、この違いは量子メモリに書き込まれている量子データを光子に書き出すことや、逆に光子から量子メモリに書き込むことを要請する。これらの部分についても、基礎科学・基礎研究として、要素ごとに取り組まれてきており、隣接ノード間通信の概念実証もされるに至っている。

しかし、広域ネットワークである量子インターネットに至るために取り組まなければいけない課題も残っている。例えば、量子ビットの情報が消失する前にEnd-to-End で量子通信を実行するためのリソース管理やルーティングなど、ネットワーキングアルゴリズムや分散システムとしての研究は広域ネットワークにおいてこそ困難となってくる領域である。また、量子インターネット上でのアプリケーションの研究開発を通して、使いやすいアプリケーションの設計や、アプリケーションを実装しやすいアーキテクチャの設計も検討しなければならない。

量子インターネットを広域ネットワークとして成立させるためには、技術のみならず社会的にもスケールする仕組みになっていることが重要となる。技術的にスケールさせるためには、諸要素を小さな機能単位のモジュールとし、モジュール間の接続規格を決めて、役割のはっきりした高信頼なモジュールを組み合わせて量子インターネットを構築する必要がある。具体的には、諸要素の専門家が集い、量子インターネットの要件や機能を分解してプロトコルスタックやアーキテクチャを検討し、レイヤー間のインタフェースやハードウェアレベル・ソフトウェアレベル双方でのモジュール間の通信規格やインタフェース仕様などを作り込んでいく必要がある。モジュールなどの多様な実装の間でのコンパチビリティやインターオペラビリティの担保も、高信頼広域分散システムとして展開・運用していくための重要な課題である。社会的にスケールさせるためには、研究者・技術者のみならずユーザーや行政といった多様なステークホルダーを巻き込んで拡大させていける仕組み作りが重要となる。例えば、競争領域と協調領域の切り分けを行い、多様なインセンティブに基づく研究開発が整合的に行われるようにする必要がある。そのためにも、社会に対して量子インターネットについての情報発信・啓蒙活動を行ったり、多様なステークホルダーにおける情報共有や協力の枠組みが重要になってくる。

 

これら背景を踏まえ、学術関係者・国研・技術コミュニティ・ネットワーク機器ベンダ・通信事業者・IT企業・光学機器ベンダ・量子機器ベンダ・行政などから、量子力学や量子光学のような物理・工学から、情報理論・ネットワーク理論・ネットワーク工学、アーキテクチャ・ソフトウェア工学・アルゴリズム論などコンピュータサイエンス/エンジニアリング、さらには社会科学やELSIに至るまで、量子インターネットを構成する諸分野の専門家が集い、量子インターネットの実現に向けて活動していく場として「量子インターネットタスクフォース(Quantum Internet Task Force; QITF) 」を立ち上げる。

QITFでは、量子インターネットを実現する上での課題検討・解決のために、量子インターネットのテストベッドの構築と、そこで得られた成果や知見の共有・標準化への貢献などを継続的に可能とする体制を整えることを目的とした活動を行う。デジタルインターネットの研究開発の歴史を鑑みると、温度変化やノイズなどの環境的要素が理想的な実験室では発見できず、現実環境下のテストベッドで多くのデバイスを協調動作させてみて初めて明らかになる問題が存在する。研究を加速させる上においても、操作可能なテストベッドの登場によってアルゴリズムやアプリケーションの研究が本格化することは、量子コンピュータの研究コミュニティの事例でも示されている。実際に動作させられるテストベッドの構築は人材育成にも大きく貢献する。すなわち、テストベッドを構成する各種の量子ハードウェアを取り扱える技術者や、量子ネットワークエンジニア、量子サーバエンジニア、量子ネットワークオペレータ、量子通信まで扱える量子プログラマなどのほか、ELSIなどの量子技術と社会の関係について論じられる人材、さらにはテストベッドでの知見を踏まえて最先端を切り開いていく研究者が育ち、量子時代に入る社会に羽ばたいていく。また、これらの活動を通して、量子インターネットのエコシステムの構築を目指す。

 

■活動方針

  • 量子インターネットの研究開発者の糾合・研究開発の実施
  • 量子インターネットのエコシステムの構築
    • テストベッドの研究開発サイクルをエコシステムのサイクルに発展
    • テストベッドで積極的に問題発見・解決することにより最先端であり続ける産業サイクルを実現
  • 社会へのコミットメント
  • 国際交流・連携の推進

 

■研究分野

QITFは、量子インターネットを実現するために必要な研究活動全般に取り組む。例えば以下に示す項目があるが、これらに限らない。

  1. 量子インターネットの機能の分解・共通インタフェース仕様策定
     複雑な分散システムである量子インターネットの挙動を検証しやすくするために、必要機能を分解・整理して、モジュール化する。モジュール同士を接続するための共通インタフェース仕様を策定・改善していく。
  2. 量子インターネットアーキテクチャやプロトコルスタック・関連アルゴリズム等の研究・実装
    量子インターネットワーキングに向けてアルゴリズムやプロトコルが提案されているものの、物理レイヤーと協調して動作実証されたアルゴリズムやプロトコルはまだない。本コンソーシアムでは、物理レイヤーと協調動作させて、実際に動かして初めて分かる課題を洗い出しながら、量子インターネットワーキングを動作実証していく。また、物理レイヤーや素子に求められるパフォーマンスについても議論していく。
  3. 量子インターネットのハードウェアを実験室外で動作させるためのモジュール化
    量子インターネットのハードウェアは基礎科学の最先端であり、環境が完全に管理されている実験室外で動作させることには困難が伴う。したがって、実験設備や試料のコンパクト化や安定動作に係る研究開発が必要である。
  4. 量子インターネットテストベッドの構築
    完全に管理された理想的環境である実験室から持ち出して安定動作させる研究開発や、モジュール化の研究開発を実施するものの、実際にモジュールを組み合わせたり、フィールドで動作させると、予想外の課題が明らかになると見込まれる。本コンソーシアムでは、これらをテストするためのテストベッドを構築する。
  5. 量子インターネットの動作実証
     上述のテストベッドを用いて、研究開発したモジュールや実装を組み合わせ、量子インターネットの動作実証を行う。
  6. 量子メモリ・光学素子などのインタフェース必須機能の達成や、基本性能を向上させる基礎研究
     量子インターネットの基本機能を実現するには、量子メモリなどで、インタフェース仕様が要求する機能やパフォーマンスを達成する必要がある。このためには、同じ物理系でも、量子操作に向いたセッティングや長期間保存に向いたセッティングなどの個別機能に特化したセッティングではなく、必須仕様を全て達成する総合的単一セッティングを見出し、基本素子を開発していかなければならない。エンドノードやルータなど量子インターネットにおける役割に応じて素子への要求仕様は異なるので、物理系の特徴と合わせて検討していく必要がある。また、量子インターネットのパフォーマンスは物理レイヤーに大きく左右される。地道なパフォーマンス向上が、総合的なパフォーマンスに貢献していく。
  7. アプリケーション・アルゴリズムに関する研究
     量子インターネットのアプリケーションや分散コンピューティングアルゴリズムの研究開発は発展途上である。量子コンピュータの例を見ても、NISQのように不完全でも、動作させることができる実機の登場によって、アプリケーション・アルゴリズムの研究開発は大きく進展する。QITFにおいても、テストベッドやシミュレータも有効活用しながら、アプリケーション・アルゴリズムの研究開発を推進する。

構成メンバー

バンミーター・ロドニー 環境情報学部 教授
村井 純 慶應義塾大学 教授
API策定・テストベッド構築・モジュール化
鈴木 茂哉 政策・メディア研究科 特任教授
API策定・テストベッド構築・モジュール化
佐藤 貴彦 理工学部情報工学科 准教授
量子インターネットワーキング・量子素子
永山 翔太 株式会社メルカリ R4D・シニアリサーチャー / 政策・メディア研究科特任准教授
量子インターネットワーキング・ 量子素子
戻る
研究者
研究所に
寄付をする