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アンコール遺跡におけるシステムの利用アンコール遺跡とはカンボジア王国の西北部に位置するアンコール遺跡は、9〜15世紀にクメール帝国によって建造された遺跡群である。1992年にはユネスコ世界遺産にも指定されたアンコール遺跡は東南アジア基層文化の象徴であり、壮大なスケールと崇高な造形美をもつ主に石造りの遺跡群である。しかし、その多くは長年にわたって熱帯雨林という劣悪な環境の中に放置されており、さらに内戦の影響により崩壊の危機に瀕しており、保存、修復対策が必要とされている。 このような状況にあるカンボジアのアンコールワット周辺の遺跡群においては、「遺跡群全体を対象とした地域レベルの地図の整備」と「各遺跡レベルの図面の作成」という精度の異なる二つの空間情報の整備が必要とされている。本研究で対象とするのは、このうち、各遺跡レベルの詳細な図面の作成をするシステムの開発である。 地域レベルの地理空間情報の整備アンコールの遺跡群では30km四方の範囲に約70以上の遺跡、700以上の建造物が存在するいわれている。個々の遺跡に関してはフランス極東学院(EFEO)など、各国が測量作業を行っているが、それらすべての遺跡に関して絶対的な位置や相対的な配置関係を知ることは容易でない。現地には戦前にフランスが作成した地形図があるが、これには数百メートルの誤差が含まれることが確認されている。また、アンコール遺跡は密林に囲まれており、内戦時に埋められた地雷の影響もあって、測量基準点網の作成は難しい。 このような状況を踏まえ、「地域レベルの測量」では個々の遺跡の位置や概要を把握するためのインベントリーシステム(目録)を作成することが目的とされる。ここでは、広範囲での測量を必要とするため安定性の高いRDGPSを利用して、各遺跡の基準点を測量する。この測量結果を用いて、衛星画像や精度の低い地形図を補正しGISデータベースとして統合する。さらに、ここには各遺跡ごとに作成した図面や調査結果などの概要をリンクさせることで、統合的なデータベースを作成していく。 各遺跡レベルの地理空間情報の整備一方、「各遺跡レベルの地理情報の整備」では、それぞれの遺跡の建物の3次元図面を作成することが要求される。この図面は崩壊が進む遺跡の現状を記録すると共に、修復計画を立てる際に必要となる。修復には50分の1程度の図面が必要とされ、この精度での計測が求められる。すでに述べてきたように、3次元の地理空間情報を取得するということは容易な作業ではない。その中でも、遺跡は一般的なビルなどと違って直線や曲線など単純な幾何オブジェクトから構成されておらず、崩れていたり複雑な形状をしており、もっとも3次元データの取得が難しい建造物の一つであるといえる。また、遺跡のような文化的、芸術的、歴史的な側面を強く持つ建物では、各人によって興味が異なり、各建物の装飾や意匠などをどの程度まで図面として記録して行くかが問題となる。このため、オルソフォトなどのように現実を忠実に記録できる図面の作成が求められている。 システムの必要要件以上のような状況を踏まえ、「地域レベル」、「建物レベル」それぞれのシステムに共通して、以下の様な事項が必要となる。
作業の概要1998年9月7日〜9月19日の期間に現地で本システムを利用してデータを取得した。なお、現地での作業は、日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JSA: Japanese Government Team for Safeguarding Angkor)の修復活動の一環として行った。
バイヨン寺院は、ジャヤヴァルマン7世の第四次アンコール都城(12世紀末〜13世紀初)アンンコール・トムの中心寺院であり、危機に瀕した多くのアンコール遺跡群の中でも、もっとも危険な状態に有るものの一つである。 寺院本体は正面約 130m、側面約140mの矩形平面を有し、東側正面にはアプローチのためのテラスが突出しているなど非常に大型の遺跡となっている。また、クメール建築における特徴として非常に複雑な形状をしており、3層のテラスからなり、楼、祠堂、伽藍が入り組んで配置されている。四面仏顔塔が49、その仏顔を196も持ち、また、回廊には数々のレリーフが彫り込まれており、非常に複雑な形状をしている。
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