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背景と目的
システムの特徴
GPS
トータルステーション
デジタル写真測量
システムの構築
アンコール遺跡での利用
計測結果の出力
システムの評価
まとめ

システムの特徴

本システムで取得した3次元の地理空間データは、都市計画、考古学、その他各種の環境計画、現状分析、シュミレーション、ナビゲーションなどの基盤データ(インフラストラクチャ)として利用できる。本システムを利用することで、現場での作業を中心にデータ取得作業が効率化され、データのコストが低下し、更新頻度をあげることもできる。

本研究で開発したシステムは、従来の測量や3次元計測システムと比較して以下のような特徴を持つ。

精度を落とさずに効率性を高めるシステム
対象物上の基準点なしの測量
10cm精度で図面を作成
デジタル化することでGISCADなどとのデータの統合が容易
ドライプロセスでリアルタイムに測量を行うため、測量結果の現場での確認が可能
テクスチャ情報を同時に取得できる

 

計測の効率化

本システムでは、従来の巻尺、平板測量などによる測量方法と同程度以上の精度を保ったまま、現場での作業を中心に効率性を向上させることが最大の特徴である。このような従来の方法では、現場において計測しながらデータを作成せざるを得ないため、長期間にわたって滞在する必要があった。考古学のフィールドなどでは必ずしも現場の作業環境は良いとはいえず、データ取得のコスト高や困難さの一因となっていた。しかし、本システムでは現場での作業はシステムの設置とカメラによる撮影程度であり、実際の計測や図面の作成作業は現場で行う必要は無い。

基準点無しの測量

従来の写真測量では対象物上に基準点を設置し、それを写し込んでカメラの方向や位置などのパラメータを決定して計測を行うことが一般的であった。このように写し込まれた基準点の位置座標を利用してキャリブレーションを行う操作は、システムを設置し新しい対象を測量するたびに行わなければならない。この基準点はあらかじめ位置のわかっているポイントに設置する必要があり、基準点を設置するための測量作業が必要となる。建物の立面などの測量では足場を組んで高いところに上がって基準点を設置する必要があり、効率性の面で大きな問題となっている。

本システムではリアルタイムに計測を行い、計測結果を現場で確認し、CADやGISなどのデータベースに直接蓄積されることを目的としている。このためにはこのようなカメラパラメータの取得を自動化することが必要である。キャリブレーションを自動化するには、@画面に写っている既知の長さや高さの情報を利用する方法、Aビデオセオドライト、GPS、ジャイロなどの特殊機器を利用してカメラの標定要素を知る方法、B対象物上にレーザなどで光のパターンを投影して能動的に基準点を作成する方法などがある。

それぞれに関してさまざまな方法が考案されているが、本システムではAにあるようにGPSやノンプリズム型のトータルステーションなどの新しい測量技術を用いて基準点測量を省略する方法をとる。本システムではこれらの計測システムが対象物のグローバルな位置座標やカメラの方向などをアクティブに取得するため、あらかじめ対象物上に基準点を設置する必要が無い。

測量精度

地図や図面においては約0.3mmの線を用いて描画されこの範囲内で記述できるため、これが図面における誤差の許容範囲となる。このため、例えば遺跡修復に必要とされる50分の1程度の図面を描くには、約1.5cmの精度で描画できることになる。また、従来のトータルステーションなどの測量機器の精度は約1〜2cmとされている。しかし、測量機器の精度が高くてもそれをもとに製図を行う際に2cmの精度で描画を行うことは難しい。

また、今回利用した要素技術は比較的高精度のものではあるが、その精度にも限界がありGPSには約2cm、トータルステーションには約3cm程度の誤差が含まれている。また、本システムで利用したデジタルカメラの1280×1000ピクセルという解像度にも限界があり、10mの対象物を撮影した場合は1ピクセルあたり1cmとなるのでそれ以上の精度を出すことは難しくなる。

現実的には、遺跡で修復を行うような場合に誤差の少ない図面を描いてもその通りに復元を行うことは不可能である。このため、50分の1の図面に1.5cmの精度が必ずしも必要であるとは言えない。

一般的にデータ取得の精度と、コストや効率性とは相反する関係にある。もし精度を上げようとすれば、より高精度の機械が必要となるため機材にかかる費用は増える。また、より精密な作業が要求されるため、データ取得作業にかかる時間も多くなる。このため、精度とコストや効率性を考慮しつつ、目標とする精度を定めることが必要となる。

このような理由から、本システムでは10cmの精度で測量できるシステムを開発することを目的とする。ここでいう精度とは、測量を行ったある点の座標がグローバルな絶対座標と比較して10cm以内の誤差にとどまっていることを意味する。

計測のデジタル化

現在の技術では、一般的にアナログで測量を行った方が高い精度を出すことができる場合が多い。写真測量では、対象物を画像として写してその画像を元に測量を行うため、どの程度まで詳細に画像が記録されているかが精度に大きく影響してくる。一般的な35mmの銀塩フィルムでも600万画素の解像度を持つといわれ、アナログの近接写真測量では100mmの大判フィルムを使うためさらに高い解像度を持つことになる。しかし、デジタル写真測量に必要なデジタルカメラでは高解像度化が進んでいるものの一般的に入手可能なものは100万画素程度であり、アナログ写真の解像度には及ばない。

このような状況にもかかわらずデジタル化するメリットは、データの取得作業を効率化できるということである。デジタル化することでデータ取得作業を自動化することができる。また、従来の写真測量のように現像作業が必要無く、図化機のような大型の特殊機械もいらなくなるためデータ作成作業を効率化できる。

また、従来の平板測量やアナログ写真測量などの計測方法では、操作方法も難しく、緻密さが必要とされる作業であるため、高精度に図面を作成していくためには訓練が必要であった。しかし、このようなデジタルによる測量システムでは、経験等による影響を受けず、誰が測定しても同じ程度の精度を出すことができるといえる。

さらに、デジタル化することで取得したデータを直接CADやGISなどに入れデータベース化し、データの取得から蓄積、管理、表示というフローを一括して行うことができ、効率性を高めるとともに、途中の入力ミスなどによる精度の低下も防ぐことができる。

リアルタイムの計測

従来のアナログ(Wet Process)の写真測量では、撮影した画像を現像し、図化機にかけて製図するため時間がかかった。このため、考古の発掘現場などでは図面が完成するころには、すでに現場は埋めたられてしまって確認が取れないというようなことが起こった。このような写真測量をデジタル(Dry Process)で行うことで、取得したデータの計算、座標算出、図面の描画などをリアルタイムに行うことができ、作成したデータを現場で確認することも可能になる。これは効率化とともに、データの精度の向上にもつながる。

テクスチャ情報の取得

本システムでは計測対象物の写真をデジタルカメラで撮影することで計測を行っている。このため、3次元の形状データとともに、色合い、質感、ひび割れなどのテクスチャ情報も同時にデジタルデータとして取得できることになる。従来の巻尺や平板測量、トータルステーションなどによる測量では、3次元の座標データなどの文字や点と線など線画で表現するのが一般的である。写真測量の場合もアナログのままでは加工ができないため、写真は3次元形状データの抽出にだけ利用しており、作成される図面は線画となる。しかし、遺跡などの複雑な計測対象の場合、積み上げられた石の一つ一つが3次元的に削られて違った形をしており、ひび割れや苔の影響もあって微妙な風合いがあり、これらをすべて線画で表現することは難しい。

本システムではこれらを含めたデータを画像として取得しているので、この画像を加工してオルソフォトを作成したり、これらを利用して抽出した画像にテクスチャマッピングをしてリアルなCGを作成することも可能になる。