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            ■■ 学校評価のノウハウをe-learningで学ぶ ■■■■■■■
                         分析:木幡 敬史  (政策・メディア研究科)

  近年、各学校での取り組みをサポートするために、各教育委員会や教育センターなどでは、学校管理職や教務主任などを対象に学校評価に関するガイドラインやマニュアル等の文書作成が活発化してきている。
 また、多くの教育関係の雑誌や単行本でも、学校評価を取り上げている。その内容は、理論や実践紹介、歴史や政策、各地の動向など多岐に及ぶ。
学校管理職は、自校に学校評価を導入・実施するにあたって、こうした種々の研修やメディアを通じて、学校評価をよく理解し、各校に応じた活動を実施することが期待されているのである。多忙感が募る状況にあろう。

1.学校が支払う学習コスト

 その結果、学校評価を各学校へ導入するためには、とても多くの学習のコストが必要となっている。各自治体が実施する学校評価に関する説明会やセミナー、勉強会に出席し、多くの時間を費やし、必死にメモをとる作業を強いられているのが現状である。しかし、一度聴いたぐらいで実施に向けた取り組みが具体化されるのであれば、もうとっくに学校評価は定着していたであろう。
 しかし、それでもそうした勉強会に出席するのは、学校評価への期待が大きい反面、いかに取り組むのかの方法が見いだしがたいからであり、おびただしい情報のなかから適切な情報を得ることができないからである。そのため、それでなくとも多忙な学校にとって、有力情報を求めて、管理職をはじめ主要な教員が学校を空けてしまうという大きなコストを支払うことになっている。
さらに、学校管理職にとって大きなコストとなっているもののひとつに、自らが学んだことをもとに、自校の教職員や保護者、地域の人々に学校評価の必要性や方法を説明して実施を求めていくためのコストがある。

 これまで取り組んできた学校評価とどこが違うのか?学校評価と言いながら、教職員管理や人事考課に繋がるのではないか?子どもたちや保護者にアンケートして、学校に対して無理難題を要求してきたらどうするのか?
 校内には、種々の危惧や誤解が広がっている。そのような状況に対して、納得のいく説明が求められているのである。 もちろん、学校経営上、管理職自身が学校評価の内容について説明することも必要である。ただし、一般の教職員もまた自ら学校評価について学ぶことができれば、円滑な学校評価の導入・実施に繋がっていくであろう。しかし、多忙な教職員が学校評価研修に出向くことは難しい。各地の研修会でも、全員を受け入れられるだけの体制にはない。まして、学校評議員や保護者に研修参加を求めることはもっと障害が多い。活字離れも甚だしい。
 学校関係者に学校評価の導入とその効果に対して、管理職が基本的な情報を学び、発信していくためには、従来の文書型やセミナー型だけでは対応できない状況になってきているように思われる。

2.e-learningによる学習機会の提供

 こうした状況のなかで、インターネット環境を用いて、学校評価に関する学習コストを低減させるための方法として、e-learningによる学習の機会の提供の可能性がある。
インターネットがめざす姿として「ユビキタス」という概念がある。「いつでも・どこでも・だれでも」利用できる環境がインターネットのめざす姿となりつつある。e-learningによる学習コンテンツの提供の大きな可能性は、この「いつでも、どこでも」学習できるというユビキタスの実現であ
る。つまり、e-learningによる学習コンテンツの提供によるメリットは、時間的なコストや場所、移動のコストを低減できることである。

 e-learningによるコンテンツ提供のもうひとつのメリットは、従来の文書型と比較すると、最新情報が学習者に提供されるスピードが速くなるということがあげられる。
マニュアルやガイドライン文書が各学校に提供されるまでには内容が確定してから多くの時間がかかる。提供されるものが最新の情報に更新され、安定して提供されることがe-learningの持つ特性のひとつである。
また、学校評価について講演を行うことのできる研究者がまだまだ少ないのが現状である。こうした講演の内容を提供できることで、学校管理職は、場所や時間の制約から逃れることができる。そこで、慶応義塾大学の金子郁容研究室では、新しい学校評価の普及のため、e-learningによる教材作成の実験を始めている。

 

3.視覚教材への対応

 インターネット環境を基にしたe-learningコンテンツの提供によって、従来の文書型の情報提供から、視聴覚による情報提供が可能となる。
この点について、エドガー・デール(Edgar Dale)は、1946年、有名な「経験の円錐」という図を示し、人間の認知は直接的・具体的な経験から、種々の抽象化を経て、最後に最も抽象的な言語象徴すなわち「概念化」に達すると説明した。
文書による学習だけではなく、多様な教育メディアを活用することによって、図に示した円錐の上昇方向(具体から抽象へ)と、下降方向(抽象から具体へ)の両方向への動きが活発に行われることで、教育的に豊かな経験となる、ということである。つまり、「百聞は一見にしかず」と、「百見は一体験にしかず」ということであるが、こうした学習を積み重ねることで、学習は深まっていくということを示唆している(もちろん、学校評価についての学習だけに限ったことではない。)。


(図:デール「経験の円錐」;水越敏行『授業改造の視点と方法』明治図書、1979年)

 

4.学ぶ人間と教え方のマッチング 

 教育メディア研究において、学習者と教授法のマッチングについての研究が行われているが、学習者の学びのスタイルについて、ATI(Aptitude Treatment Interaction)理論研究があげられる。これは、適正処遇交互作用と呼ばれている。
 ともすると「適性」とは、学習者に固有不変の要因と考えられがちであるが、ATI理論に基づけば、学習者の有する興味・関心、意欲、態度、学習スタイル、学力などのさまざまな要因も、それに関わってくる「処遇」、つまり教え方、学習課題、カリキュラム、教師のかかわり方、学習環境などのあり方に応じて変動することになる。
つまり、ある学習課題についての「適性」は、それへの「処遇」すなわち指導方法によって変わるのであり、個々の学習者に合った適切な指導方法が整えられるならば、大きな学習成果があげられることになる。e-learningでは、様々な学習コンテンツの提供が可能であり、個々の学習者の多様性に耐えうるシステムなのである。

5.e-learningによる教材の提供

学校評価に関するe-learningコンテンツを開発するにあたって、コンテンツの提供主体が課題となっている。学校評価に関する専門の研究者が少なく、その一方、学校からのニーズは高まり続けており、需要過多な状態が起きている。
 こうしたなかで、研究者自身が学校評価に関する学習コンテンツを発信していくことも、研究者としての課題のひとつになっている。しかし、必ずしもその研究者にITリテラシーが十分に備わっているわけではないし、e-learningのシステム設計を独力で果たせる状況にもないのが多くの実態である。
 そこで、金子郁容研究室を中心とした研究チームは、木岡一明氏(国立教育政策研究所)の協力を得て、学校評価に関するe-learningコンテンツの開発を行っている。
 しかし、コンテンツを作成するには、現状ではやはり専門の技術が必要となる。そのため、慶應義塾大学の千代倉研究室との共同開発もまた進めてきている。その千代倉研究室では、パーソナルコンピュータを利用して、講師が単独で講義、講演を手軽に記録できるシステムを開発し、運用実験している。
このシステムでは、文書資料の提供とともに、講師による講義が行われる。コンテンツの内容にも依存するが、1つのセクションが10〜15分程度のものとなっている。 それは、学習者にとって、「いつでも・どこでも」学習できることが重要であると同時に、研究者にとっても、いつでも手軽にコンテンツの作成ができることが重要だからである。
このe-learningのコンテンツは、ストリーミング形式で配信されるため、各学校のパソコンでは、インターネットの回線の状況に応じて、サーバが提供する2段階の配信速度(128kbpsと500kbps)を選択してもらうことになる。現在、各学校のインターネット回線状況は、ダイアルアップ回線から、段階的にブロードバンド回線へと変更されており、鮮明な映像が各学校へ提供できる環境も整いつつあるのが現状である。

6.新しいタイプの学び

 このe-learningのコンテンツは、上述した講義・講演の提供、各地で作成が進んでいるマニュアルや手引きのデータベースの提供に加えて、アンケート調査のノウハウを提供することを主要な目的としている。
ただし、今日の状況に照らせば、学校評価を実施する人々が、ベストプラクティスを学び合える環境づくりがまずは必要である。
そのためには、困っている、うまくいかない、といった情報を交換するコミュニティづくりが重要である。学校評価に限ったことではないが、「こうすればうまくいきます」という情報よりも、うまくいかなかった状況をどのように対処して改善していったのか、という情報のほうが「重要な情報」だからである。しかし、こうした「新しい学び」に向けた情報は実はなかなか手に入れることができないし、特に完全を建前とする学校は、そうした情報を公にはしたがらないのが常である。
 各地の教育センターや教育系大学・学部では、学校評価をはじめとした教育実践支援システムへの取り組みが進んでいるが、ぜひ学校との協働を通じて学校の実態に深く入り、そこで得た知見をもとに「新しい学び」をも可能とするユビキタス学習環境の整備に向けた動きを活発化してほしい。

 

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「自律・分散的な学校マネジメントを支える学校評価と情報公開の実態調査」調査報告書