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            ■■ 保護者アンケートの活用〜大阪府の実践〜 ■■■■■■■
                         分析:木幡 敬史(政策・メディア研究科)

 学校の信頼性が揺らぎ、「開かれた学校づくり」が望まれている現状において、保護者とのコミュニケーションの充実は、学校にとって非常に重要なものとなっている。
住民本位の行政サービスが求められるなか、学校もまた、保護者や地域の人々の需要を把握し、教育サービスの質を受容者の満足度の観点から見直すことは、学校への不信感を解消するために不可欠なものとして捉えられてきている。そのため、学校は、従来のお知らせ的な情報発信を改め、積極的な情報収集と信頼を恢復しうる情報発信を行っていくことが期待されている。かくして今日、学校評価に、そうした期待に応えるコミュニケーションツールとしての役割を組み込む動きが加速してきている。

1.大阪府「学校教育診断」の課題

  大阪府教育委員会は、「学校教育自己診断」を、1998年度にモデル校14校で、校長、教職員、生徒・児童、保護者に対して実施し、その成果をもとに、2002年度からは、全国の地方自治体に先駆けて、大阪市を除く府内の全公立学校(定時制・通信制を除く)に実施を求めている。 この「学校教育自己診断」では、校長用、教職員用、生徒・児童用、保護者用の4種のアンケートが用意され、基本的には、4種の質問内容は共通している。

  しかし、この「学校教育自己診断」が抱えている課題のひとつに、保護者は評価できるほどの学校の情報を持っていない、ということがあげられている。保護者にとっては、学校で何が行われているか知らされていない状態で質問されても、答えるための判断材料が提供されていないために、回答は雰囲気や推測の域を出ることができない、という指摘である。

 たとえば、「内容がわかりやすく、楽しい授業が多いようだ」という質問が設定され、これに対し、「よくあてはまる」、「ややあてはまる」、「あまりあてはまらない」、「まったくあてはまらない」という4段階の尺度で回答するのであるが、この問いに的確に答えるためには、ふだんから授業の様子や内容について理解していなければならない。多くの保護者にとって、それは果たせないことであろう。

 同様に、「保護者に対しての質問違い」という課題も存在している。
たとえば、「学校は、事故の防止に配慮し、施設・設備の点検を行っている。」という問いが設定されている。これは、学校側が日常業務として必ず遵守していなければならないことであり、保護者に問うべきものではないだろう。保護者にとっては、本当に意味のある質問項目、つまり保護者として学校に聞いて欲しい内容、確認したい内容を設定することが必要なのである。

  もちろん、このような保護者や生徒からの診断結果について、豊中市立第一中学校の大友庸好校長が、「厳しいものもあるが、学校改善に向けての強い後押しになっている」とし、「学校教育目標や重点項目を見つめ直すことで、現在の自分を知ることがで」き、「自己診断は有効」と捉えているように、当事者では気づきにくい問題を気づかせ、改革に向けての気運を醸成する効果が認められる。

 それだけに、誰に何を尋ねるのかの綿密な調査設計が必要となるのである。
定量的調査としてのアンケートの潜在的な欠点は、アンケート対象者は、質問した内容にしか答えてくれない、聞いたことしか答えてくれない、というものである。それゆえ、アンケートの質問内容は、調査仮説に基づいた設定が必要であるということは、アンケート調査の基礎基本である。

 学校としては、保護者は今、何を学校に望んでいるのか、学校はその望みにこたえられるものになっているのか、という視点をもつことに加え、学校と保護者との関係に将来的な経営の仮説を持つ必要がある。そして、経営の仮説・ビジョンをもつことによって、定期的に点検、評価をする有効性がでてくる。そもそも学校評価を導入するのは、こうした学校経営のビジョン・仮説を個々の学校が独自に掲げ、組織マネジメントを展開していく必要があるからである。

 

2.保護者向けのアンケート設計のあり方

 では、どのようにすれば保護者向けに適切な調査が設計しうるのであろうか。そのためには、各学校はいくつかの調査ステップを踏む必要がある。
前述したように、学校評価を有効に活用するためには、学校は独自に経営のビジョンや経営仮説を考えていくことが重要である。 

 児童・生徒の学習環境を構築する上で、保護者・地域・学校が連携して、学校周辺の地域やコ ミュニティの特性・環境に合った学校づくりを進めることが重要になっている現状において、現状を把握しなければよい経営ビジョンも生まれず、評価・点検しなければならない項目も生まれてこない。 

 保護者との連携や学校づくりを行う前提となるものが、さまざまな「ニーズ」である。
保護者や地域の視点に立ったとき、児童・生徒を取り巻く事柄や環境について「重要である」と認識しているが、「現状には満足していない(不足や不満を感じる)」というものがありえる。こうしたニーズ調査には、まず定性的調査が必要となる。すなわち、ヒアリング調査やインタビュー調査を通して、保護者からの意見を聞くことから始まるのである。
われわれの研究室(慶應義塾大学金子郁容研究室)での実験では、保護者に対して、唐突に「学校が抱える課題はなにか?」と問いかけるよりも、「最近こどものことで気づいたことはなにか?」という問いかけのほうが実は保護者は多くの情報を持っており、いろいろな課題について話をしてくれる、ということがわかった。ヒアリング対象に偏りがないように調査を設定すれば、それによって多くの学校の課題が浮かび上がるといえよう。

 ただし、さらに定量的調査を組み合わせることが有効である。なぜなら、インタビューやヒアリングでは、「誰かが言ったこと」に過ぎず、保護者全体の意見を反映したものかは疑わしいからである。その点を確認するために、アンケートによって保護者全体に調査して、保護者全体のニーズを探っていくというステップを踏むことが重要なのである。
こうして定性調査と定量調査を組み合わせることで、各学校では、一般的な学校がもつ課題ではなく、それぞれの学校、保護者が持つ課題を把握し改善策を考えることができるのではないだろうか。実際にわれわれの研究室が都内の公立学校で行った実験では、保護者は一般的な問題についてはよく知っているものの、実は、自分たちの学校やこどもの環境、実態についてはほとんど知らない、という現状であった。
 まず、実態をしっかりと把握することから学校評価はスタートするのである。

3.保護者のニーズを踏まえた特色づくり

 民間企業では、マーケット・リサーチに力を入れている。その際、重要な観点となっているのは、顧客満足(CS:Customer Satisfaction)である。
 この観点に基づけば、問題解決指向(改善指向)は、問題が解消されることで、顧客の不満はなくなるが、満足感の向上にはつながらないことが知られている。それに対し、特色づくり指向(改革指向)は、顧客が価値を感じる特色により、満足感は高まる。
その意味で、学校評価は、学校の運営状況を把握するだけではなく、保護者が持っているニーズを把握するという役割も同時に兼ね備えていくべきであろう。保護者全体のニーズ傾向を探り、それを踏まえ、学校として取り組みうる公共性の高い課題を明確にして、それに向けた特色づくりを推進していくことが、信頼される学校づくりになるのである。

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「自律・分散的な学校マネジメントを支える学校評価と情報公開の実態調査」調査報告書