ネイチャーポジティブ・ラボ

Laboratory of Nature Positive

開設2024年4月1日
代表者
一ノ瀬 友博
環境情報学部 学部長・教授
連絡先
一ノ瀬研究室(ε311)内線53143
E-mail:naturepositive[at]icloud.com
※[at]は@に変換してください。

目的

ネイチャーポジティブは、2022 年12 月にカナダのモントリオールで開催された生物多様性条約第15 回締約国会議(COP15)に向けて注目されるようになってきた言葉で、自然が失われることを防ごうというのではなく、自然を再生し、よりポジティブな状態に移行させようという考え方である。その背景には、2010 年に名古屋で開催された第10 回締約国会議(COP10)で、採択された目標がある。COP10 では、2020 年をターゲットとして生物の絶滅速度を顕著に下げることが目標とされた。地球の長い歴史の中で、生物は何度も大量絶滅を経験してきた。その中でも広く知られているのは約6500 万年前の大量絶滅で、それまで繁栄していた恐竜の多くがこの頃に姿を消している。産業革命以降、人類の活動が地球規模で環境に影響を及ぼすようになったとされているが、生物多様性については、20 世紀後半から過去の大量絶滅を上回るようなスピードで数多くの種が地球上から姿を消している。そのため、COP10 で「2020 年までに絶滅速度を顕著に低減させる」という目標が設定されたが、主要な先進国を含めこの目標は達成できなかった。よって、新たな目標は、ネガティブな影響を和らげるという考え方から、ポジティブを目指すという発想の転換となった。COP15 では、2030 年までに陸域と海域の30%を自然保護地として確保する30by30 や、生態系を守り回復させる資金調達メカニズムを確立することなどが合意された。イギリスやEU においては、早速このネイチャーポジティブを定める法律や制度が整えられつつある。生物多様性の損失は経済活動に大きな影響を及ぼすため、民間企業が自身のビジネス活動においてどれだけ自然環境や生物多様性に影響を及ぼしているか、情報開示する仕組みである自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures; TNFD)が2023 年に公表された。

また、政府が法律に基づき自然を保護する自然保護地以外に、民間等が所有、管理しているものの生物多様性保全に結果的に貢献している土地をOther effective area-based conservation measures (OECM)として指定する動きが世界各地で進められており、日本では環境省が自然共生サイトの認定を2023 年度から開始した。初年度だけで100 カ所を大きく超えて認定がなされ、民間企業をはじめとした様々な団体の関心が高いことが明らかになってきている。

地球規模の環境問題としては、気候変動が生物多様性に先行して耳目を集めてきた。2015 年の気候変動枠組条約第21 回締約国会議(COP21)では、2100 年までの平均気温上昇を2 度(1.5 度が努力目標)に抑えるという目標を掲げたパリ協定が採択された。しかし、近年の研究では2030 年代前半には1.5 度上昇してしまうと予測するものもあり、可及的速やかな対応が求められている。この気候変動対策と生物多様性保全は相互に深く関係しており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と、生物多様性版のIPCCともいわれる生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)は、2020 年に合同ワークショップを行い2021 年に報告書を発行している。気候変動対策と生物多様性保全をトレードオフの関係ではなく、シナジー効果を生み出すことが求められる。気候変動適応には、健全な生態系がもたらす生態系サービスが必要不可欠である。本ラボでは生物多様性保全のみならず、気候変動と生物多様性の目標を達成する社会変革をもたらす手段を明らかにすることを目的とする。

湘南藤沢キャンパス(SFC)では、2022 年11 月に2030 年までのカーボンニュートラル宣言を行い、2023 年度からはサステイナブルキャンパスプログラムを開始した。サステイナブルキャンパスプログラムでは、カーボンニュートラル、資源循環、自然環境保全、健康と地域、食と農、SFC 中高における環境プロジェクトなどのプロジェクトが活動しており、本ラボはこれらのキャンパスの取り組みとも連動し、ネイチャーポジティブの実現を目指すものである。ネイチャーポジティブという言葉自体は、生物多様性保全の文脈から生まれてきたが、本ラボでは気候変動対策を含め、サステイナブルな地域のあり方を扱う予定である。

研究活動計画の概要

1年目

2024 年度から3 カ年の予定で科学研究費基盤研究B「気候変動適応とネイチャーポジティブを両立させるためのマルチスケール空間計画手法」がスタートする。本研究では、気候変動により洪水をはじめとした災害リスクが高まることを想定し、自然再生を通じた適応策をマルチスケールで検討する。

2023 年度から開始されたサステイナブルキャンパスプログラムを継続して実施する。ネイチャーポジティブの視点からは、キャンパス内における生物相のモニタリングと自然再生を進めるとともに、樹木における炭素固定量の測定を行う。

慶應義塾は、各地に慶應の森を所有しているがその中で最も規模が大きいのが南三陸の慶應の森である。2023 年度から生物相のモニタリングを開始したが、2024 年度も継続してモニタリングを行うとともに、森全体の炭素固定量の推定を行う。

自動カメラによる定点観測やDNA メタバーコーディングを活用した生物多様性モニタリングシステムの開発を開始する。

2年目

科学研究費基盤研究B「気候変動適応とネイチャーポジティブを両立させるためのマルチスケール空間計画手法」は、2 年目を迎える。事例対象地の自治体におけるヒアリングを実施する。サステイナブルキャンパスプログラムは、最終年度を迎える。キャンパスのカーボンニュートラル、資源循環、自然環境保全をはじめとしたそれぞれのプロジェクトを連携させ、学生、生徒、教職員の行動変容につなげる方法を検討する。

南三陸の慶應の森に加え、他の慶應の森のモニタリングを開始するとともに、SFC 以外のキャンパス、一貫校の敷地における検討する。

生物多様性モニタリングシステムを稼働させ、運用上の課題を明らかにする。対象地としては、尾瀬国立公園内の東京電力所有地や慶應の森を想定している。システムの開発、実装を目的として外部資金の獲得を目指す。

3年目

科学研究費基盤研究B「気候変動適応とネイチャーポジティブを両立させるためのマルチスケール空間計画手法」は、最終年度となる。研究をとりまとめ、手法を明らかにするとともに、社会実装を目的とした新たなプロジェクトを立ち上げる準備を進める。環境研究総合推進費等を想定している。

生物多様性モニタリングシステムについては、新たなモニタリング対象地を選定する。民間企業や自治体による自然共生サイトを予定している。

構成メンバー

一ノ瀬 友博代表 環境情報学部 学部長・教授
代表
石川 初 環境情報学部 教授
地形・土地利用解析
黒田 裕樹 環境情報学部 教授
DNA メタバーコーディング分析
厳 網林 環境情報学部 教授
地理情報分析
ショウ ラジブ 政策・メディア研究科/総合政策学部 教授
気候変動適応策
田中 浩也 環境情報学部 教授
資源循環社会構築
中澤 仁 環境情報学部 教授
環境センシング
大木 聖子 環境情報学部 准教授
防災・減災
大越 匡 環境情報学部 准教授
人のセンシング
松川 昌平 環境情報学部 准教授
自律分散協調型まちづくり
宮本 佳明 環境情報学部 准教授
気候変動予測
和田 直樹 環境情報学部 准教授
カーボンニュートラル・資源循環
湯浅 拓輝 政策・メディア研究科博士課程
哺乳類・鳥類モニタリング
川上 仁之 政策・メディア研究科修士課程
昆虫類モニタリング
鈴木 勇登 政策・メディア研究科修士課程(予定)
炭素固定量推定
井本 郁子 SFC研究所 上席所員
植生モニタリング
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