--- 報告書 要旨 ---
■研究課題
従来、マンガ・アニメ・ゲームといった分野は、アカデミックな領域とは明確に区別され、研究対象とされることは稀であった。だが近年ようやく、これらの分野こそ日本が世界に誇れるユニークかつ最高水準の文化領域であることが認知され、学会が設立される等、にわかに注目を集めてきている。しかし、それらの研究は未だ発展途上にあり、専門家が独自の知識を背景に限られたコンテンツに解釈を施すといったものに留まる。これらの研究領域が真に学術分野として確立されるためには、より多くの事象を対象とした実証性の高い研究成果が提出されるべきである。
本研究は、事象が多様化し選好が細分化した「サブカルチャー」と呼ばれる現代日本文化の各ジャンルに対し、社会調査サイトで得たデータを基にデータマイニングを適用することで、実証的解釈を試みるものである。上記ジャンルに加え、音楽・映画・ファッションブランドなどを分析対象に、それらの研究領域の発展に貢献したい。
■研究成果本年度の成果は、自分史作成サイトiMap(http://www.imap.gr.jp/)の個別ジャンル「マンガ」「ゲーム」「服飾ブランド」の各解析を通して、「認知構造分析モデル」を開発、洗練させてきたことに尽きる。このモデルは、以下に挙げる、解析のための5手法と、解釈のための2手法の7プロセスによって構成される。
【解析のための5手法】
Method1. インターネット社会調査
価値観の多様化や事象の細分化に耐えうる、膨大なデータの取得
Method2. データクリーニング
バイアスやノイズが多いインターネット社会調査の限界を補う、統計的データ補正
Method3. レイヤー分割
知名度的類似性ではなく、本質的特性を分析するための階層生成
Method4. クラスタリング
有機的な関係性を再現する、Kohonenネットワークを利用した次元の縮約
Method5. 全体構造の可視化
自己組織化マップによる鳥瞰図「メディアマップ」の描画【解釈のための2手法】
Method6. レイヤースライス
有効な知見を効率的に発見するための、レイヤー別内部構造分析
Method7. 領域規定
クラスター属性・支持ユーザ属性に基づく、全体構造の特性把握いずれのジャンルにおいても、インターネット社会調査で得た1ビットの認知トランザクションデータにデータマイニングを適用した定量的構造分析としては、世界初の事例であったと評価できる。また、それぞれのジャンルの解釈において、さらに以下の新規性が得られた。
ジャンル「マンガ」に関しては、従来のようにマンガが一括りで「サブカルチャー」と位置づけられる点に警鐘を促し、「サブカルチャー化」が単に"サブ"領域を"サブサブ"領域化させていく働きだけではなく、性差といった、従来自明と考えられていた差異を曖昧化し、融合的新領域を誕生させる働きをもつ点を証明した。
ジャンル「ゲーム」(TVゲーム)に関しては、メガヒットを飛ばすタイトルによって構成される「メジャーマップ」と、マニア集団から強い支持を得るタイトルによって構成される「マイナーマップ」、両者の中間に位置するタイトルによって構成される「ミドルマップ」の、3つの自己組織化マップの比較を行った。この対照結果より、ゲーム不況を乗り切るカギである「中間タイトル群の成熟」は、マスコミ的な広告戦略よりも、草の根的な口コミ伝播によってこそ成し遂げられる可能性が高い点を突き止めた。
ジャンル「服飾ブランド」に関しては、女性のファッションブランド認知が、まず理想形から出発し、レイヤーを下るにしたがって、スタイルとしての個性を発揮するようになるが、最終的には身体性に帰着するという特徴を導き出し、仮説モデルとして提出した。